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ボルボは先週、自律走行トラックのスタートアップ企業であるAuroraと提携し、完全自律走行のセミトラックの新しいラインナップを発表した。このトラックは、北米の物流拠点間ルートに導入される予定だ。ボルボの自律走行部門Volvo Autonomous Solutionsと、Google、Tesla、Uberの元幹部が設立したAuroraとの契約は、「数年にわたる長期的なパートナーシップ」であると両社は述べている。
これは、大手OEMと自律走行技術を持つ新興企業との最新のパートナーシップとなった。ボルボは、自律性レベル4(L4)トラックの開発に向けて準備を進めており、業界初となる自律走行ソリューションの提供に特化したビジネスユニットVolvo Autonomous Solutionsを設立していた。
今回の提携はボルボがより広範な用途に自律走行トラックを販売するためのものと推測される。ボルボはすでに、これまで世界各地で実施してきたパイロットプログラムに基づいて、自律走行に参入している。例えば、ノルウェーのブレンノイ・カルク鉱山では、自律走行するボルボFHトラックが石灰石を近くの港まで3.5マイルに渡って輸送している。ボルボは荷物の量に応じて報酬を得ている。また、スウェーデンのヨーテボリにある物流センターから近くの港までコンテナを運ぶために、ボルボは自律走行トラクタVeraを開発している。
これに先立ち、1月、米大型トラックメーカーのパッカーは大型トラックの自動運転モデルの開発・販売を支援するテクノロジーパートナーとして、Auroraと契約したと発表した。パッカーは車両を提供し、Auroraはハードウェア、ソフトウェア、運用サービスなどの自動運転技術を提供する。
Auroraは、ボルボとの協業と並行して、パッカーとの提携も継続するとしている。また、Auroraはトヨタとデンソーとも提携してロボタクシーを開発しており、2021年末までに最初の製品が登場する予定だ。フィアット・クライスラーやヒュンダイ、EVスタートアップのバイトンなども顧客だ。
長距離トラック輸送は、自動運転技術の最初の応用分野の一つになると考えられる。近年、ドライバーレス・トラック業界では、パートナーシップやその他の企業取引が盛んに行われている。ダイムラーのような老舗企業はWaymoと手を組むと明らかにした。TuSimple、Ike、Embark、Plusなどの新参企業も完全なドライバーレス・トラックを目指している。
物流業界では、自律走行技術がトラック運転手の大量離職につながるのではないかという懸念が広がっている。2017年に行われた調査では、自律走行トラックによって、2030年までに米国と欧州で運転手の需要が50〜70%も減少し、両地域にいる640万人のプロドライバーのうち440万人が廃業する可能性があると試算している。
FMCW LiDARの有力企業を買収
2019年、AuroraはLiDARを開発するBlackmoreを買収し、高速道路で大型トラックを安全に運転できる業界唯一のマルチモーダルセンシング(多数のセンサを互いに補完しあうように動作させて計測を実現)の開発に着手した。Blackmoreが採用するFMCWと呼ばれるセンシング手法は、距離と速度の両方を測定するため、光源から発せられた光が物体に反射し戻ってくる時間を測定することで、物体までの距離を計算する飛行時間型(TOF)よりも自律走行に適正があると考えられている。
また、ベンダーの大半は、TOFの代替として振幅変調(AM)パルスベースのLiDAR技術の使用に注力してきたが、その結果、OEMやサプライヤーは、電力を大量に消費するAMライダセンサーが生み出す不十分なデータに悩まされてきた。LiDARの使用がより一般的になるにつれ、干渉を受けやすいAMシステムは効果的でなくなり、安全性も低下することが確認されてきた。
この問題に対処するため、Blackmoreは2015年、自律走行車向けに、距離と速度を同時に測定できる世界初の周波数変調(FM)ライダーシステムを発表した。携帯電話、自動車用レーダー、GPSシステムなど、チップセットを使用する産業でも、より少ない電力で長距離に干渉のないデータを提供するために、AM変調からFM変調へと移行した。
FMCW方式のLiDARは、出射するレーザー光の周波数を一定に変化させることで動作する。出射された光は2つに分けられ、外へと放たれ、跳ね返ってきたビームは、もう半分のビームと再結合する。
このとき、2本の光はそれぞれ異なる距離を移動している。また、光の周波数が変化しているため、2本のビームの周波数も異なっている。同じような周波数を持つ2本のビームを組み合わせると、2本のビームの周波数差に応じたビート周波数が得られる。そして、ビームの周波数が予測可能な方法で変化していれば、この周波数差を距離の測定値に変換することが簡単にできる。
この方法は、レーザービームの伝わり方を測定するのに不必要に複雑方法のように思えるかもしれないが、いくつかの大きな利点がある。1つは、FMCWライダーが他の光源からの干渉に強いことだ。従来の飛行時間型LiDARは、太陽のまぶしさやノイズの多い光源に惑わされることがあった。FMCWは、外部からの光に惑わされにくい。
Blackmoreはソフトウェア定義のLiDARデータを使用しているため、顧客は柔軟なAPIを使って、視野、レンジ、ポイント密度、スキャン速度などの運用パラメータをその場で調整することができる。長距離前方監視用の光学ヘッドは、40×40度の視野をカバーし、2本のビームで120万点/秒以上のスループットを実現し、500メートル以上の範囲に到達することができると主張している。既存のFMCW LiDARの範囲は50m程度に制限される。60 ~ 100mの現在のパルスLiDARは 、 遅いペー スで動き回る都市部のロボタクシーには十分である。しかし、高速で移動する自動車は、 衝突回避に間に合うように止まるには200 ~ 300mの範囲を必要とする。
AuroraはBlackmoreを買収することで、自律走行車の安全性を確保する上で欠落していた重要な要素である速度計測が可能となり、歩行者などの移動する危険物をより適切に認識(回避)することを目論んでいるだろう。
この買収は経験豊富なFMCW LiDARチームを雇用するための動きでもあった。2020年には早速、このチームは新型LiDARであるFirstLightを発表し、同社の自律走行プラットフォームであるAurora Driverと統合した大型トラック(クラス8)のトラックをテキサス州で展開し始めた。
Auroraは、昨年からテキサス州ダラスとフォートワースの間に位置する地域でミニバンと大型トラックの試験を行っており、「Aurora Driver」のハードウェアとソフトウェアのスタックをテストしている。Auroraは、ロボットタクシーに注力している競合他社とは異なり、最初の商用サービスは、「現在の市場規模が最も大きく、ユニットの経済性が最も高く、要求されるサービスレベルが最も適している」トラック輸送であると考えている。
急速な資金調達と買収
Auroraは昨年、極めてダイナミックな時期を迎えた。セコイアが主導し、Amazonを投資家に含む資金調達ラウンドで5億ドルを調達した。また、Auroraは、Uberの自律走行車部門であるAdvanced Technologies Group(ATG)を40億ドルと報じられる額で買収した。買収の詳細な条件は非公開だが、TechCrunchによると、Uberは4億ドルをAuroraに投資してAuroraの株式26%を取得したとされる。投資後企業価値を100億ドルに達した。
ATGは、Uberがカーネギーメロン大学(CMU)のNational Robotics Engineering Center(NREC)の3分の1のスタッフに当たる約50人を迎え入れたことで発足したが、一人が死亡した2018年の事故以降停滞していた。Auroraを率いるCMU出身のクリス・アームソンのチームとの合流は前向きに捉えていいだろう。
Auroraの共同創業者でCEOのアームソンは、2000年代初頭から自動運転車の開発に携わってきた開拓者である。カーネギーメロン大学でロボット工学の博士号を取得したアームソンは、2004年と2005年にDARPAグランドチャレンジ、2007年にアーバンチャレンジに参加したチームのロボット車両の開発においてリーダーシップを発揮した。共同設立者には、テスラのモデルXプロジェクトを率いたスターリング・アンダーソンと、カーネギーメロン大学で研究室を運営した後、Uberで自律走行車の開発に携わったドリュー・バグネルがいる。
参考文献
ジェフ・ヘクト. FMCW ライダ : 自動運転車の選択肢.
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Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Mayumi Nakamura, Kinoco, Masatoshi Yokota, Yohei Onishi, Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, Sotaro Kimura, UmiSora, TAMAKI Yoshihito.
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