東南アジア最大のテクノロジー企業Sea Limited(NYSE、ティッカーシンボル: SE)の株価急騰は人々を驚かせている。同社の株価は一年前の6倍の水準に到達し、時価総額は約140億ドルだ。
ユニコーン・スタートアップといえば、多くの人がすぐにGojekとGrabを思い浮かべるだろうが、この両者は資金年少の激しい闘いを繰り広げ、COVID-19のショックで難しい舵取りを迫られている。それに対し、非常に力強い成長を示すのが、Sea Limitedだ。
地元シンガポールのシンガポール証券取引所(SGX)に上場する代わりに、2017年にニューヨーク証券取引所に上場することを選択した。この戦略が奏功した。同社の株価は2018年に入ってから1,000%以上、今年だけでも300%近く高騰しているからだ。
驚異的な企業価値は過去6年間、1セントも利益を上げていないことを考えると、さらに驚くべきものだ。Sea Limitedには豊富な資金がある。同社のバランスシートには35.15億ドルの現金があるだけでなく、優良投資家として知られる中国のインターネット複合企業であるテンセントがいる。テンセントは、Sea Limitedの発行済株式の22.9%を所有している。
世界のビデオゲーム市場の規模は2021年までに1740億ドルに達すると推定されている。特にアジア太平洋地域はその規模が大きく、2019年の市場規模は720億ドルで、北米市場の2倍以上となっている。アジア太平洋地域の主要市場は、中国、日本、韓国だ。しかし、これらの上位3カ国以外にも、東南アジアの新興成長市場には多くのチャンスがあり、Sea Limitedはゲームプラットフォーム「Garena」を通じ、この市場を支配しようと計画している。
2019年のデジタルエンターテインメント部門の収益は11億3600万ドルで、1年前の4億6200万シンガポールドルの2倍以上となった。グループの総収益21億ドルのほぼ半分を占め、しかも、急成長を遂げている。総収益は2017年の新規株式公開(IPO)時の3倍だ。
2020年Q2で前年同期比93%の成長遂げたSeaの収益。デジタルエンタテインメント事業の堅調な成長に加え、コロナ禍で急成長したEC事業の寄与が大きい。Source: Sea Limited, Quatery Results 2020 Q2.
ゲーム事業で足場を築く
同社はゲームというアセットライトな事業で地盤を築いた。Sea Limitedのゲーム事業体Garenaは自社で展開するゲームプラットフォームを浸透させるため、東南アジア各地のインターネットカフェやゲームカフェを虱潰しにしていき、欧米や中国のヒット作のディストリビューターの地位を築いた。これは同様のビジネスを中国国内で展開するテンセントの協力が大きい。
CEOのフォレスト・リーは中国本土生まれで、上海交通大学、スタンフォード大学ビジネススクールを卒業し、シンガポールに移住、国籍を替えた経歴。リーとテンセントの間で深い協力関係が構築されていたと考えられる。
2019年年次報告によると、2020年3月15日現在、創業者およびテンセントは、同社の普通株式の総議決権の63.0%を実質的に保有している。テンセントの最高執行責任者であり、同社のプラットフォーム、コンテンツグループ、インタラクティブエンターテインメントグループの開発を指揮するYuxin Renは2013年9月よりSea Limitedの取締役に就任している。
Garenaが有力なゲームコンテンツを配信できたのは、テンセントのバックアップが大きい。「League of Legends」、「Arena of Valor」、「Speed Drifters」など、Garenaの最も人気のあるゲームの一部は、テンセントとその関連会社、またはテンセントが所有しているものだ。
Garenaの成長の秘密は、ベトナムの111 Dots Studioが開発し、ガレナがパブリッシュした人気ビデオゲーム『Free Fire』にある。これが同社発の自社開発ゲームとなった。『Free Fire』は、2018年にiOSとGoogle Playストアを組み合わせた世界で4番目にダウンロード数の多いゲーム(PUBG Mobile, Fortnite, and Call of Duty: Mobileに次ぐ)。2019年11月現在、全世界で10億ドル以上の収益を計上している。
最近では、インドで『PUBG』が禁止されたため、その代替として『Free Fire』の人気が高まっているという。つまり、Garenaは巨大市場インドへのチケットを手に入れた。
Free Fireの成功は、ほぼすべてのデバイスでプレイできること(クロスプレイ)に起因している。特に、東南アジアの一部の未発達な地域では普及している傾向のあるローエンドの携帯電話に対応していることだ。これには、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイなどSea Limitedが事業を展開している地域が含まれる。
中国のテンセント、Sea Limited、アメリカのアクティビジョン・ブリザード(テンセントが大株主)の3社が協力して、東南アジアで『コール オブ デューティ』のモバイルゲームを提供しているのが良い例だ。これにより、ガレナは自社開発ゲームの枠を超えた展開が可能になった。
今回の提携が相互にもたらす利益にはもう一つの側面がある。2018年、中国の規制当局は未成年者のゲーム依存症を取り締まるために積極的な措置を取った。国家報道出版局(SAPP)は、毎年市場に参入するゲームの数を制限するために、より厳しい規制を適用した。今年に入ってからSAPPによって制限の一部が緩和された兆しがある。しかし、両社のコラボレーションは、テンセントのビデオゲームの市場に便利な代替ルートを提供する可能性があり、Sea Limitedにとっても有益なものとなる。
テンセントゲームズは海外でも中国と同じくらい多くのユーザーを獲得することを目指しているという。例えば、テンセントは任天堂との提携拡大を検討しており、アメリカのゲーマー向けのコンソールゲームを構築している。Sea Limitedはテンセントにとって東南アジアでの成長への扉となる可能性がある。
2020年Q2でゲーム事業Garenaの四半期アクティブユーザー数が61%成長。四半期課金ユーザー数は91%成長した。コロナによってゲーム利用が増加したことが反映されたと考えられる。Source: Sea Limited, Quatery Results 2020 Q2.
急激な成長を遂げるEC事業
ゲーム以外にも、Sea LimitedはShopeeプラットフォームを通じたEコマースにも積極的に取り組んでおり、デジタルエンタテインメントを上回るスピードで成長している。2017年のECの収益は4744万ドル。2019年には17倍近くに膨れ上がり、8億2265万ドルに達している。そうは言っても、Sea Limitedにとってeコマースはまだ不採算だ。その最大のライバルであるLazadaのように、競合他社のほとんどは、中国のインターネットの巨人、アリババの支援を受けている。この分野の激烈な競争環境を考えると、Shopeeがいつ黒字になるかは不明である。
しかし、COVID-19は、何百万人もの人々が家にいることを余儀なくしているので、電子商取引企業に恩恵を与えている。2020年6月には、Shopeeは、総注文数が前年同期比で150%加速し、調整後の収益は同期間で187%増加したと述べている。
Sea Limitedは競合企業から遅れながらも、ECに参入したが、モバイルに焦点を当てたSeaの電子商取引事業体Shopeeはシンガポール、マレーシア、タイで地位を築くと、東南アジアのGDPの40%を占めるインドネシアでも、トコペディア、ラザダ、ブカラパックの先行者に取り付き、アプリのダウンロードベースでは首位に立っている。また、東南アジアと台湾の月間アクティブユーザー数でShopeeが引き続きショッピング部門で1位を獲得している。
EC事業が派手な赤字を積み重ねる財務構造だったが、近年、東南アジアのEC市場の成長が急加速したことで状況が一変した。その大波は、毎年統計を公開しているGoogle、シンガポールの政府系ファンドテマセク・ホールディングスらが中期予測を修正しないといけなかったほどだ。さらにコロナ禍で一部の消費者がオンラインショッピングの割合を高めることで、Shopeeは急速にその収益規模を膨らませている。
Shopeeは中国で流行していることをすべて詰め込んだ造りをしている。アリババとJDの複占だった中国EC市場に突如食い込んだ拼多多のECアプリへのゲーミング機能の追加や、タオバオライブなどが激しい競争を繰り広げるライブストリーミングなどが揃っている。
2020年Q2でEC事業の総注文数が150%成長。流通総額(GMV)は110%成長した。非常に急激な成長が継続している。Source: Sea Limited, Quatery Results 2020 Q2.
デジタル金融部門にも良い兆候
Sea Limitedの第三の柱は、デジタル決済とデジタルウォレットを運営する事業体「SeaMoney」を通じたデジタル金融サービスだ。これは、総売上高の0.5%未満を占める、Sea Limited の中では最も小さな部門である。
しかし、まだ導入から日が浅い。このサービスは、Shopeeと統合することで決済処理や電子ウォレットサービスを提供できるという考えで、2019年の第4四半期に導入されたばかりだ。ただ、2020年の第2四半期には、インドネシアにおけるShopeeの総注文の45%以上がモバイルウォレットShopee Payを使って支払われたと同社は報告している。
東南アジアでも中国の先行例をならい、デジタル決済が浸透しつつあり、インドネシアでは、GojekのGo PayとGrabが出資するOvoの決戦が行われていたが、ECという最もデジタル決済と相性のいいプラットフォームを保持するShopee Payが猛烈な勢いで先行勢を追いかけている。
シンガポールではMASがデジタル銀行のライセンス付与をめぐり14社の申請者を審査している最中だが、申請者の中にはシンガポールに多額の投資を実行するアリババの姉妹企業アントグループとともにSea Limitedは名前を連ね、上位候補の1つに挙げられています。ライセンスを取得することで、リテール顧客と非リテール顧客の両方に預金を預けることができ、バンキングサービスを提供することが可能になる。
シンガポールは東南アジアの金融ハブであり、この地でデジタル銀行業を展開できることは、東南アジアの金融への強い影響力を持つ可能性があるということだ。
ゲーム、電子商取引、そして現在はデジタル決済サービスを提供しているSea Limitedの将来は、成長と収益性の適切の天秤を取ることだろう。現状、成長は他が羨むレベルのものに恵まれている。
Eye Catch Photo: Image via Sea Group News Room
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