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米証券取引委員会(SEC)は、SPACによる逆買収(リバースマージャー)について調査を開始し、引受会社がどのようにリスクを管理しているかについて情報を求めていると、ロイターは24日(現地時間)、4人の関係者の談話を基に報じた。
報道によると、SECのレターは、銀行に自発的な情報提供を求めたもので、正式な調査要求のレベルには達していないと、関係者2人が述べているという。しかし、そのうちの1人は、この手紙はSECの執行部門から送られたものであり、正式な調査の前兆である可能性を示唆していると述べている。
さらにロイターは、金融市場プラットフォームのDealogicによると、今週取引を開始した15のSPACのうち、1つを除いてすべてのSPACが、取引初日に新規株式公開(IPO)価格である1口10ドルを下回って取引を終了したと報じた。
昨年は、SPACに限らず、公開市場を通じた資金調達の画期的な年だった。Refinitivによると、2020年、世界の非金融企業は公開市場の投資家から3.6兆ドルの資金を調達した。投資適格債とジャンク債の発行額はそれぞれ2.4兆ドル、4,260億ドルと記録を更新し、上場企業による新株発行も5,380億ドルと前年比70%だった。
金融緩和と財政政策の影響で公開市場には資金が溢れていたが、SPACもこの恩恵を享受した。Refinitiv社のデータによると、SPACは昨年、1,570億ドルの調達額を示したが、今年はそれを上回る1,700億ドルを記録している。
SPACは、かつてはIPO市場から閉め出された企業のための公開市場への「裏口入学」と考えられていた。また、機関投資家だけではなく誰にでも門戸が開かれているため「貧乏人のためのプライベート・エクイティ」と揶揄されていた。しかし、最近、SPACは主流だ。2020年、IPOによる資金調達のうち、SPACは過半に迫るシェアを達成した。
SPACのような逆合併(リバース・マージャー)のブームは今回が初めてではなく、2000年以降で3回目。以前のニュースレターで参照したINSEAD助教授Ivana Naumovskらの研究では、過去2回の逆合併のハイプを叩きのめしたのは、SECによる規制だったという。SECが調査から何らかの規制に踏み切った場合、バブルの冷却化が起きる可能性がある。
もう一つ懸念がある。それは、伝統的なIPOルートよりも規制当局の監視が緩いことで、上場に不適格な新興企業に道を開いているかもしれないことだ。
スタンフォード大学がまとめたデータによると、投資家は2021年の第1四半期にSPACと組み合わせた8社を訴えています。訴訟の中には、SPACとそのスポンサー(SPACがターゲットと合体すれば巨額の報酬を得る)が、取引に先立って弱点を隠していたと主張するものもある。SPACをめぐる騒動として有名なのはニコラとローズタウンモーターズである。どちらも虚偽の情報を喧伝していたとするショートセラーレポートの洗礼を浴び、効果的な反論をしていない。
米スタンフォード大学ロースクールのマイケル・クラウズナー教授と米ニューヨーク大学のマイケル・オーロッギ助教が発表したワーキングペーパーは、2019年1月から2020年6月までの間に合併した47のSPACすべてを分析し、その結果、SPACは持続不可能な仕組みだと判断を下している。
クラウズナーらは「SPACは10ドルで株式を発行し、合併時には10ドルで株式を評価するが、合併時には中央値のSPACは1株当たりわずか6.67ドルの現金を保有している」という衝撃的な事実を提示している。
しかし、1株当たりの現金が失われる度合いが小さい合併後企業の中には、高い絶対リターンを示すものがあることも指摘している。
仮にバブル崩壊が起きたとしても、SPACというスキームが消えてなくなることを意味するだろうか。宇宙、アーバンエアモビリティ、EV、再エネ、バイオ、電池、LiDAR等の収益化に時間のかかる先進的な事業を助ける重要な手段なのは間違いない。海外企業が米株式市場の豊富なマネーにアクセスする手段の一つでもあるだろう。
SPACの課題は明白で、スポンサーと初期投資家がワラントを通じてリスクにさらされず濡れ手で粟を享受するのを抑制すればいい。SPACの調達額は数億ドルに上るが、スポンサーはわずか2万5000ドルを出資するだけで、上場後の持ち株比率が20%になるように設定されるのが一般的だ。
このスキームにおいて公開市場の投資家、特に個人投資家は喰い物にされることが多い。個々のSPACの構造をしっかり把握し、事業の将来性が賭けに値するのかを見極めるべきだ。合併直前に買うのは一番悪手だと考えられる。合併時に希釈化が起きるので、理論上の株価は10ドル以下まで下がる。クラウズナーらは中央値のSPACのコストは、逆合併で企業が得たキャッシュの半分に達すると算定している。これにより生じるはずの株価の下落の影響を最も受けるのは後発の投資家だ。
SPACに関する過去のニュースレター/Axionの記事
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