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要点
中国当局はアリババグループが独占禁止の法規に違反したとして、3,000億円の罰金を課した。習近平政権は新しいテクノロジー企業の扱い方を模索しており、これで規制強化が緩むとは考えづらい。
中国国営メディアの新華社通信は、中国のEコマース大手のアリババが土曜日の初めに182億元(約3045億円)の罰金を受けたと報じた。
報道によると、中国国家市場監督管理総局(SAMR)は2020年12月にアリババに対する調査を開始し、この件に関して特別調査チームを立ち上げた。チームは事前調査に基づき、アリババグループへの立ち入り検査を行い、関連人員を調査・聴取し、関連文書・情報を確認し、大量の証拠資料を入手した。
他の競争力のあるプラットフォームやプラットフォーム内のマーチャントについても、広範な調査と証拠収集を行い、証拠資料の詳細な検証とビッグデータ分析を行い、専門家を組織して、綿密な事件分析と論証を繰り返し行っている。
これらの調査により、中国の規制当局はアリババグループに対して182億元の罰金を科した、と新華社は報じている。この数字は、アリババの2019年の中国国内での年間売上高の4%から算出されたものだ。また、アリババは2021年から3年連続で規制当局に法令遵守報告書を提出することが求められた。
当局は、アリババが2015年から、自社の電子商取引プラットフォーム上でのみ事業を行うよう企業に独占的に要請し、優越的地位の濫用を行っていたとみなした。アリババは、企業が他の電子商取引プラットフォームと関わることを禁止する「二選一(二者択一)」を強いるだけでなく、市場原理やプラットフォームのルール、データやアルゴリズムなどの技術的手段を駆使して、アリババの方針に従わない企業を罰し、同社の市場支配力を確保していたとしている。
「調査の結果、アリババグループによる二選一の実施は、中国のオンライン小売プラットフォームサービスの市場における競争を排除・制限し、商品・サービスや資源要素の自由な流通を妨げ、プラットフォーム経済の革新的な発展に影響を与え、プラットフォームにおける加盟店の正当な権利・利益を侵害し、消費者の利益を害するものであり、独占禁止法第17条第1項第4号に該当することが判明した」。
この決定を受けて、中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」は、今回の罰金は、市場を浄化し、公正で秩序ある競争を確保するための規制当局の強いシグナルであると報じている。「『袖を引く』とは、一種の愛と気遣いでもある。 ガバナンスシステムの継続的な改善により、プラットフォーム経済はより大きな発展の機会をもたらし、質の高い発展と質の高い生活に貢献することができると信じている」。
アリババグループは、中国政府から一連の敵対的な措置を受けてきた。先日、Financial Times紙は、中国政府がジャック・マー(馬雲)の経営するエリートビジネスアカデミーであるHupan Universityに対し、新入生の入学を一時停止するよう強制したと報じた。さらにFTの報道によると、中国政府当局はエリートビジネスアカデミーを中国共産党の利益を損なう可能性のあるグループと見なし始めたという。馬は2019年にアリババの指導者の座を退いたが、政府関係者はいまだに馬の影響力を彼が20年以上前に創設した同グループと結びつけている。
馬の成功は江沢民元主席を含む上海閥の支援に依存しており、アントグループの間接的な株主に江の孫が関与していることに、上海閥と対立する習近平が激怒したため、アントの上場を停止したとWSJは報じていた。
最近、中国のテクノロジー業界の動きは目まぐるしい。3月初旬、全国人民代表大会で、ポニー・マー(馬化騰)は、自らが創設した8,000億ドル規模の帝国であるテンセントに対する規制強化を共産党上層部に要求した(ジャック・マーのように一線は越えないというパフォーマンスのようだ)。その数日後には、サイモン・フーがアントグループの最高経営責任者を辞任した。その直後、アクティブバイヤー数でアリババを抜いたPinduoduo(拼多多)の共同創業者、コリン・フアンが会長を辞任した。ジャック・マーは、中国の教育制度について語るビデオを除いて、ここ数カ月公の場に姿を見せていない。
2016年以降、合計で1.2兆ドルもの時価総額を増やしてきたアリババ、テンセント、拼多多は、ここ数週間で株価が暴落している。非上場のアントは2,000億ドルの価値があると考えられ、10月には3,000億ドルを超えていたが、上場は停止され、中核の貸金業のビジネスモデルの転換を迫られるほか、デジタル人民元の登場によって決済、送金ビジネスも手放すリスクに晒されている。
他にも数十社の中国の大手テクノロジー企業があるが、2月中旬以降、数千億ドルの株主価値が失われている。アントグループのIPOが頓挫した後、「中国のナスダック」と位置づけられる上海証券取引所傘下の新興ハイテク企業向け株式市場「科創板」への上場を断念する企業が後をたたないとFTは報じている。すべてのテクノロジー企業が「政治リスク」に身を震わせているのだ。
テクノロジー企業の弾圧の端緒は、10月の公開イベントでジャック・マーが中国の国営金融機関を質屋に例えたことだった。
フアンは拼多多を退社したのは新たな機会を模索するためと説明しているが、The Economistは、中国最大のeコマース企業になるかもしれない会社を率いることを恐れているとの解釈を紹介している。フアンは最近、ジャック・マーの資産額を抜いた。同誌は「フアンは中国哲学を熱心に学んでおり『トップや極端な場所にいるのは安全ではないことをよく理解している』という。『彼は隣で起こっていることを見て、去ることにした』」と書いている。
3000億円の罰金で規制強化に終止符が打たれると考えることはなかなか難しい。中国は権力とテクノロジー企業の新しい関係を探すことになるだろう。
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