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規制当局からの独占禁止の圧力が効き始めているだけでなく、アリババがEC市場での圧力を感じていることを示す兆候として、アリババの特売品向けのECアプリ「Taobao Deals」が、ライバルであるテンセントのWeChatでミニプログラムを開始するにあたり、WeChat Payをサポートすることになったことが挙げられる。
この動きの背景には、中国の規制当局の圧力があるとBloombergが取材した関係者は述べている。規制当局は昨年12月、独占的行為の疑いでアリババへの調査を開始した。さらに2月には、中国の規制当局はハイテク企業や最近の不正競争の激化を標的とした新たな独占禁止規制を発表した。この新規則は、顧客の電子決済チャネルの制限、新規顧客と旧来の顧客間の価格差別、小規模な業界の競合他社の排除、ユーザーデータの強制的な違法収集など、独占的な行為をなくすことを目的としているが、アリババとテンセントはその主要な対象となるだろう。
長年のライバルであるアリババとテンセントは、通常、互いのサービスを自社のプラットフォームから遮断している。しかし、このたび、アリババがTaobao DealsをWeChatで利用できるようにしたのは、規制当局が課した義務の一部を果たすための措置とされる。アリババの関連会社であるアント・グループは、自社アプリAlipayでWeChat Payと競合しているのにもかかわらずだ。
アリババへの圧力はこれまでになく強い。例えば、最近、アリババのUCブラウザは、北京のハイテク企業に対する取り締まりの一環として、中国の規制当局によってアプリストアから削除された。習近平国家主席は、この調査は始まったばかりであり、今後ますます強化され、拡大していくだろうと述べている。
中国の規制当局は先週、アリババに対し、同社のメディア資産があまりにも広範囲にわたっているため、その一部を手放さなければならないと主張した。同社の資産ポートフォリオには、香港の英字新聞「サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)」の100%所有を含む、印刷、放送、デジタル、ソーシャルメディア、広告が含まれている。
当局がアリババのメディア支配に神経をとがらせるのは、昨年4月にアリババの蒋凡副総裁と有名女性インフルエンサーの不倫スキャンダルが発覚した際、アリババが30%を保有するWeiboでのツイートの伝播を防いだ件が、共産党幹部にアリババが権力を持ちすぎているという印象を与えたため、とされている。
また、当局はこれまでアリババの電子商取引事業について、出店者に競合するプラットフォームで商品を販売しないよう独占的契約の締結を迫る「二選一(二者択一)」の慣行があると指摘したこともある。世界最大級の電子レンジメーカーであるGalanz Groupは競合企業のPinduoduo(PDD、拼多多)とのパートナーシップ契約を交わして以降、Tmall(天猫)でのトラフィックが激減したとして、優越的地位の濫用であるとしてアリババを提訴していた。
テンセントもまた安全地帯に入れるわけではなさそうだ。創業者の馬化騰(ポニー・マー)が、独占禁止法当局と面会し、グループのコンプライアンスについて協議したことが、事情に詳しい関係者の話で明らかになっている。
PDDの躍進
さらに、競合からも圧迫を受けている。PDDは先週、2020年の年間アクティブバイヤー数を7億8,840万人と発表し、Alibabaの7億7,900万人、JD.comの4億7,100万人を上回った。Pinduoduoの月間アクティブユーザー数は、第4四半期に7億1,990万人に達した。また、昨年の小売プラットフォームでは、コロナブーストがかかり、流通総額(GMV)が2,556億ドルに達し、2019年から3分の2増加した。
2016年1月にモバイルアプリを立ち上げて以降、アクティブバイヤー数は急速に伸び続けている。アリババは消費者向けマーケットプレイスを立ち上げてから14年でアクティブバイヤー数5億人の閾値を超えたのに対し、拼多多はわずか4年で超えた。
拼多多が5年でバイヤー数を7億人以上に成長させたことに、WeChatのミニプログラムは大きく寄与している。ミニプログラムは中国のECにとって必要不可欠な顧客獲得チャネルだ。
PDDの顧客獲得費用は異次元の安さだ。Azoya Consultingによると、2017年の平均顧客獲得費用はわずか11元/人(1.64ドル/人)であったのに対し、JD.comでは225元/人、アリババでは310元/人となっている。背景には、PDDの共同購入というゲーミフィケートされた手法がユーザーを集めるのに役立ったこととテンセントが拼多多の16%を所有しており、ミニプログラムやチャットを通じてPDDがバイラルするのを「歓迎」したことがあるだろう。
PDDのコーポレート・ガバナンス(最高財務責任者がいない)や、農業分野での大々的な計画(これまでのところ、農家にオンライン販売のトレーニングを行っているだけ)には懐疑的な見方もあるが、ソーシャル・ゲーミフィケーションと大幅な値引きの組み合わせが成功していることは認めざるを得ない。
これらの事例は、今年の中国における電子商取引やビッグテックの大きなトレンドを象徴している。それは、中国のハイテク企業に対する政府からの圧力の増加と、中国の主要な1級・2級都市以外の人口にサービスを提供する巨大な機会の出現だ。
参考文献
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Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Mayumi Nakamura, Kinoco, Masatoshi Yokota, Yohei Onishi, Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, sokimura.
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