長い間、市場成長を享受してきた中国のインターネット市場についに独占禁止の季節が訪れた。
中国は今週、インターネットベースの独占を抑制するための独占禁止ガイドラインの草案を発表し、デジタルプラットフォームとその市場慣行が経済に及ぼす、影響力、リスクの増大に対する政策立案者の懸念の高まりを示した。この動きはすぐにアリババ、テンセント、美団点評から市場価値の約1,020億米ドルを奪った。
国家市場監督管理総局が火曜日に発表したガイドラインによると、1つのプラットフォームのみでの取引をベンダーに要求したり、買い物履歴やプロフィールに基づいて顧客に差別化された価格を提供するなど、インターネットプラットフォームによる独占的な慣行は、潜在的に非合法化される可能性があるという。
これは、市場規制当局がインターネット企業間の反競争行為を法律で定義しようとした初めての試みである。1月に行われた独占禁止法の改正では、インターネット企業を包含するように言語を微調整する程度にとどまっていたが、今回の改正では、11月末まで草案に対するパブリックコメントを募る予定だ。
この政策は明らかにテクノロジー企業をターゲットにしており、電子商取引、オンラインフードデリバリー、配車などのプラットフォームが最大の打撃を受ける可能性が高い。ガイドラインはまた、競合を排除するために急な割引を提供する活動や、消費者の機密データを共有するために結託したり、競合他社を追い出すために提携を結んだりすることも、潜在的に独占的であるとみなしている。
先週には、規制当局は、ジャック・マーが経営するアントグループに新たなマイクロレンディングのルール(主に自己資本比率に関するもの)への遵守を求めることで、史上最大規模の株式公開を停止させた。
マーは、これに先立つ10月24日の講演で、高い自己資本比率等の金融機関向けのバーゼル規制は「老人」である欧州のためのもので、もともと金融システムがなかった「こども」の中国には必要がない、と当局の姿勢を婉曲的に非難していた(これについては中国語の書き起こしを基にした和訳を用意した)。
実際には、マーの主張とは正反対の方向に中国当局は向かっている。当局は、欧米諸国がすることをなぞろうとしているみたいだ。
中国当局の発表に先立ち、欧州連合(EU)当局は10日、アマゾンが自社の優位性などを利用して小売市場の公正な競争を阻害していると指摘した上で、EU競争法(日本の独占禁止法に相当)に違反するとの暫定見解を示していた。
米国司法省と11の州は先月、アルファベット社のグーグルを反トラスト法違反で提訴した。司法省はこれを1998年のマイクロソフトに対する訴訟や1974年のAT&Tに対する訴訟に匹敵する、最大の独占禁止法違反訴訟と位置づけている。
Facebookが針のむしろにされるのもまた時間の問題だ。米連邦取引委員会(FTC)は、競合の芽を摘むキラー買収のような慣行によってFaceookが競争を阻害した疑惑をめぐって、独占禁止法違反訴訟を提起する可能性を検討していると報じられている。
これにより、AppleとMicrosoftを除くビッグテック3社が独占禁止をめぐる(顕在的、あるいは潜在的な)問題に直面している。中国の規制当局はこの状況に素早く反応したように見える。
アントとテンセントの行方
「規則案は、ベンダーがライバルのプラットフォームで商品を販売できないようにする独占契約など、多くの慣行が独占的なものと定義されているため、厳しいものになるようだ」とShanghai Ronghe法律事務所のパートナーであるGong ZhenhuaはSCMPに対して述べた。「規制当局は不正行為に対する処罰の詳細を公表しなかったが、厳しい規制監督の下でルールを遵守しなかったプレイヤーは、慣行のために高い代償を支払うことになると予想できる」。
アントグループの上場中断ですでに代償を支払っているアリババは、この規制の主要な標的となると考えるのは自然だ。アリババのTmall(天猫)を含むECプラットフォーム上では、定期的に加盟店の独占権に関する苦情が発生している。それは、アリババが、加盟店がJD.comや拼多多にも商流を作らないよう圧力をかけるためだとされる。
Axionでは、世界最大の電子レンジメーカーであるGalanz Groupの事案を紹介している。同社は拼多多とパートナシップを締結すると、暗に拼多多との協力をやめるようアリババから圧力を受けた。Galanz Groupは拼多多との協力を継続したところ、Tmallの検索結果から販売数上位の電子レンジ8モデルが消え、販売が急減した。
ただし、中国のECの競争は凄まじく、JD.comと拼多多の追走に加えて、ライブショッピングでは、快手やBytedanceが食い込んでおり、アリババは市場シェアを少しずつ減らしている側面があるのも事実だ。
中国のインターネットのもうひとつの勝者、テンセントは、オンラインゲーム、ソーシャルネットワーク、オンライン音楽、ビデオ、オンライン読書などの分野で圧倒的な存在感を示している。中国で最も人気のあるメッセージングアプリWeChatは11.5億人以上の月間アクティブユーザーを持ち、ミニプログラムによって他のベンダーの介在を許容するエコシステムを形成し、様々な機能がつまったスーパーアプリを成功させた。
ただし、テンセントも分かりやすい独占者というわけではない。ByteDanceとの競争が激化しているため、ユーザーがテンセントのプラットフォームに費やす時間が減少しているからだ。
Bytedance (Toutiao) がアプリ利用時間のシェアで存在感を示している(15.3%)。数年前まで単一の支配的な存在だったTencentは39.5%まで減らしている。Image via ウォークザチャット/QuestMobile
それでも、新ルールは今後のM&Aに向けて、テンセントにとってより多くのハードルを設ける可能性がある。M&Aは同社が様々なサービスやプラットフォームのエコシステムを構築するための「有効な方法」だった。あるいは、このポッドキャストとニュースレターで指摘したように、テンセントは戦略的投資のネットワークを形成することで、デジタルエンタテインメントの頂点の立場を確保しているからだ。
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Photo: "Jack Ma and Sir Martin Sorrell at GREAT Festival of Creativity" by UKTI [closed account] is licensed under CC BY-NC-ND 2.0