アフターコロナの前にまず不況をどうにかしよう

所得水準の低い接触型の仕事が失われ、大量失業の兆し

新型コロナの影響で、日本経済は欧米諸国と同様、厳しい状況にあると考えられる。6月8日発表の世銀予測は、2020年には世界のGDPが5.2%縮小すると想定し、日本のGDPは6.1%縮小すると予測した。パンデミックの影響で、ほとんどの国が2020年には景気後退に陥ると予想され(図1)、1870年以降、世界の国々の中において最大の割合で一人当たりの所得が減少している。

図1.不況の国の割合。世界のほとんどの国が2020年に不況に直面すると予測される。Source: World Bank

危機が世界経済を席巻したスピードを見れば、不況の深さを知る手がかりになる。世界的な成長率見通しの急ピッチな下方修正は、今後さらに下方修正が行われる可能性があることを示唆しており、経済活動を支えるために政策立案者が今後数ヶ月の間に追加的な措置を講じる必要があることを示している(図2)。

この見通しの中で特に懸念されるのは、世界的な景気後退が、新興市場や発展途上国において、GDPの3分の1を占めると推定されるインフォーマルセクターが広範に存在し、総雇用の約70%を占める経済に、大きな打撃を与えるという点である。しかし、インフォーマルセクターは新興国特有の事象ではなく、富裕国においても、ギグワーカー、フリーランスなどと形容される非正規雇用が存在し、彼らは不況の打撃を著しく受けている。

図2. COVID-19 景気後退は、1990年以降の世界的な景気後退の中で、成長予測の下方修正が最も速く、最も急峻なものとなった(3月以降の急降下をみてほしい)。

日本でも苦境に喘いでいる人はたくさんいる。休業者数が統計開始以来最多に達し、失業率も上昇傾向にある。経産省の『新型コロナウイルスの影響を踏まえた 経済産業政策の在り方について』によると、休業者数は597万人に上昇。労働力人口(約6800万人)のうち9%が休業している計算。今後、企業倒産が増えた場合、支えられなくなった休業者は失業者へと転換される可能性がある。4月に入り、非正規雇用者数は、前月比131万人の減少だった。

経済産業省『新型コロナウイルスの影響を踏まえた 経済産業政策の在り方について』Jun 17, 2020.  

菊池信之介、北尾早霧、御子柴みなもの研究は、所得水準の低い就業者は新型コロナによる影響を受けやすく、 労働市場における格差拡大につながる可能性が高い、と主張している。

今回の不況は、典型的な不況の場合とは明らかに異なり、社会的関係や対面での取引に頼りがちな業界を痛めつけ、仕事の配置に柔軟性がなく、リモートでは完結できない仕事が多い職業を苦しめる傾向がある。リモート可能とリモート不可能な職業の間の痛みに大きな格差が生じている。菊池らは、政府が早急に対応し、危機に瀕している個人の弱い立場にある人々に財政支援を行う必要がある、と訴えている。

本研究は、JCB消費NOWの支出データを用いて、COVID-19危機の影響を経済の異なるセクター間で評価し、異質な労働者の収益がショックにどのように反応するかを定量化している。

このニュースレターでは以前も、JCB消費NOWを利用しコロナ以降のオンライン消費の動向を予測した渡辺努、大森悠貴らの研究紹介している。

渡辺らは、消費者の消費行動の状態を「オフラインのみ」「併用」「オンラインのみ」の3つと定義し、コロナ前とコロナの最中での遷移の確率を、上述のデータに基づいて推計する手法をとった。この結果、渡辺らは、コロナ感染拡大に伴うオンライン消費の利用増加は、既存のオンライン消費者がその利用割合を高めたために引き起こされており、非利用者のデジタル転換を実現していないため、コロナ収束後は、オンライン消費の増加分は剥げ落ちる可能性がある、と主張している。

前述の世銀の報告書は「パンデミックによって引き起こされた大不況は、投資の減少、失われた仕事や学校教育による人的資本の侵食、世界貿易と供給の連携の分断によって、永続的な傷跡を残すことが予想される」と説明している。

今回の大不況が社会に与えた衝撃は、その後の世界を変えるだろうか。コロナ禍が生んだ変化は、不可逆な変化なのか、それとも元の木阿弥なのか、誰もが知りたいところだろう。

今週のニュースまとめ

日本人の「給料安すぎ問題」

ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名を馳せたデービッド・アトキンソン(現小西美術工藝社社長)が書いた東洋経済オンラインの「給料安すぎ問題」に関する記事が波紋を広げている。

アトキンソンは労働者を雇う会社側の力が強くなりすぎる、monopsony(モノプソニー)の弊害を指摘した。monopsonyは「買い手が1つ(mono)しかなく買い手の力が異常に強い状態」を指しており、monopoly(モノポリー、売り手の独占)と対の言葉です。現在では「労働市場において企業の交渉力が強く、労働者の交渉力が弱いため、企業が労働力を安く買い叩ける状態」を説明するために使われることが多くなっている、とアトキンソンは説明している。

アトキンソンは、労働市場におけるmonopsonyの弊害として「企業の規模が小さくなる」「輸出率が低下する」「最先端技術の普及が進まない」「格差が拡大する」「サービス業の生産性が低くなる」「女性活躍が進まない」を指摘している。

アトキンソンは日本でmonopsonyの傾向が高まった要因についてこのように主張する。「日本では、monopsonyの力が強まりやすいサービス業が中心の産業構造になったところに、セーフティーネットの整備もしないで、非正規雇用者を増やすよう規制緩和をしてしまいました。これが、monopsonyの影響が増大した主因だと分析されています」。

彼の主張がどの程度適切なのかは検証が必要だが、ビジネスの現場にいる人にとっては、議論を呼び起こす有意義な指摘に感じられる。

首相、銀行間決済手数料引き下げを指示。

この手数料はスマートフォンなどを使うキャッシュレス決済で事業者らに事実上転嫁されており、負担を減らして利用拡大につなげる。銀行間で送金する「全銀システム」について、優良なキャッシュレス決済事業者への開放を念頭に参加資格を再検討することも要請した(共同通信)。

コメント:Cafis同様、政府の指導で、NTTデータの全銀システムを安価に使えるようになれば好ましいが、他方で、キャッシュレス業者が既存システムへのフリーライドすることにもなる。フリーライドをするからには、ノンバンクのデジタル決済業者には手数料をほとんど課さないでほしい。また、中国と日本のデジタル決済の発展経緯が異なるため、決済をデジタル化する際には必ずしもQRコードに依存する必要はない。少額のオフライン支払いを即時的にさばくには非接触型の方が好ましい。非接触型とデジタルウォレットの組み合わせがベストプラクティスのように思える。

巨大ITのネット広告、価格開示義務化へ 政府が規制案

政府は16日、「プラットフォーマー(PF)」と呼ばれる巨大IT企業への規制の一環として、ネット広告の価格の開示や第三者による表示回数などの測定を義務づける方向で検討することを決めた。中間報告では、PFに対し、広告の価格の開示や価格の基礎となる表示回数などの第三者による測定の義務づけを検討するとした。(朝日新聞デジタル)。

コメント:確かにオークションの落札価格や「内的な価格推移」が外部に公開されないのは不透明であり、大きなマージンを取っていることは明らかなので、開示はいいアイデアかもしれない。ただし、4点疑問がある。

  1. ネット広告に第三者測定を加えると、広告のコストに跳ね返り、広告主が買い付ける際のコストが増すと同時にメディアの取り分を圧迫する。

  2. 料金の不透明さや閲覧数の水増しの問題は、大手テクノロジー企業よりも独立系企業で目立つ慣行であり、この規制を実行すると、むしろ、PFに有利に働く可能性があるように見受けられる。

  3. この論理なら広告代理店もマージンを公開するべきだ。

  4. この規制が施行されたときに一番嬉しいのは誰なのだろうか?

TiktokクローンZynnがApp Storeから削除

5月下旬にアプリストアチャートのトップに躍り出たTikTokクローン「Zynn」が、月曜日にAppleのApp Storeから削除された。このアプリは、すでにGoogle Playストアから削除されていた。Zynnが他のプラットフォームで公開していたコンテンツを許可なくアップロードしていたと主張するインフルエンサーからの苦情にさらされていた。それだけではなく、他のインフルエンサーたちが、サインアップしたことがないにもかかわらず、Zynn上で自分のプロフィールを見つけたと主張している、とWiredが今月初めに報じていた。

Zoom、無料ユーザーにもエンドツーエンドの暗号化提供へ

Zoomは、ビデオ会議ソフトのユーザーが通話をエンドツーエンドで暗号化できるようにすると発表した。「この機能は、有料の企業ユーザーにも制限されることはない」と同社は説明している。同社はもともとはエンドツーエンドの暗号化は有料ユーザーに限られるとしていた。

Twitchでチェスが急成長

分析会社SullyGnomeのデータによると、Twitchでのチェスの視聴時間は、今年は毎月2倍近くに増加しており、5月には視聴時間が800万時間を超えた。日系アメリカ人のチェスチャンピオンHikaru Makamuraのチャンネルが大人気。


おまけ

Axionの製品開発計画をブログで示した。有料購読ニュースメディアAxionの未来を知りたい方は、ぜひ一読を。

▼ニュースレターの著者:吉田拓史(@taxiyoshida)

記者, 編集者, Bizdev, Product Manager, Frontend Engineer. ジャカルタで新聞記者を5年. DIGIDAY日本版創業編集者を経て, デジタル経済メディアAxion(アクシオン)を創業. ■プロフィールサイトLinkedIn. ■TwitterBlogYou TubePodcast