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自律走行車に築かれたNVIDIAの巨城

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自律走行車に築かれたNVIDIAの巨城

「走るデータセンター」を一気通貫で提供

吉田拓史 Yoshi
Apr 18, 2021
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自律走行車に築かれたNVIDIAの巨城

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毎週火・金曜日発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、その週に顕在化した最新のトレンドを調べて解説するニュースレターです。同様の趣旨のポッドキャストもあります。ぜひご登録ください。

要点

NVIDIAの稼ぎ頭はゲームとデータセンターの二つだが、自動車部門が3つ目になる徴候がある。大半の自律走行技術企業や完成車メーカー、EVメーカーは多かれ少なかれ、自律走行の実現のためNVIDIAに依存している。


NVIDIAは12〜16日に開催されたGTCにおいて、自律走行車向けのAIコンピューティングSoC(システムオンチップ)であるNVIDIA DRIVE Atlanを発表した。

NVIDIA DRIVE Atlanは1,000兆回/秒(TOPS)の性能と100以上のSPECintスコア(CPUの整数処理能力に関するベンチマーク)の推定値を達成するが、これは現在のほとんどのロボタクシーに搭載されている総演算量を上回る。また、Atlanは、信頼性の高いセキュリティ、高度なネットワーキング、ストレージサービスのために、NVIDIA BlueFieldデータ処理ユニット(DPU)を搭載した初めてのSoCだ。

NVIDIAの自律走行車向けSoCは、Xavier(32TOPS)、Orin(254TPOS)、 Atlan(1,000TOPS)という著しい性能向上を遂げている。なぜなら、自律走行車が処理しなければならないセンサーデータの量は、現在の最先端の自動車の100倍にもなるからだ。

自律走行車は「走るデータセンター」だ。自律性の度合いが高まるにつれて、ソフトウェアの複雑さも指数関数的に増大し、統合されたソフトウェアの一部として、冗長で多様な深層ニューラルネットワークが同時に実行されることになる。しかも、自動走行だけでなく、インテリジェントコックピット、インフォテインメント、バーチャルアシスタントなどにも計算資源を割く必要がある。

Orinは2022年に生産を開始し、Atlanは2023年にサンプル出荷を開始、2025年の生産を予定している。言い換えれば、NVIDIAは2025年にはレベル5の自律走行が達成されると想定している、ということだ。

NVIDIA DRIVE

NVIDIA DRIVEは自律走行車のための包括的な技術バンドルだ。自律走行車向けの機械学習には、データセンター側でのモデルのトレーニングと自動車側での知覚、計画、制御の実行という2つの面があるが、NVIDIAは両面をカバーしている。NVIDIA DGXがディープニューラルネットワーク(DNN)のトレーニングと最適化を可能にし、Atlanのような車載コンピュータ(DRIVE AGX)が走行中の車両でモデルを実行する。

図1. データセンター側でトレーニング、推論、分析のために利用されるDGX A100。世界初の5ペタフロップスのAIシステム。出典:NVIDIA
図2. 車載用のNVIDIA DRIVE AGX System. 出典:NVIDIA

ハードウェアだけではない。また、ソフトウェアスタックには、オペレーティング・システムであるNVIDIA DRIVE OSと、包括的なミドルウェア機能を提供するソフトウェア開発キット(SDK)が含まれている(図3)。NVIDIA DRIVE AVは知覚、マッピング、プランニング等の自律走行の要素を提供する。

乗客向けAIのDRIVE IXはインテリジェント・コックピット機能のためのアルゴリズム・モジュールだ。将来の自動車やトラックでは、AIは乗客の質問に答えたり、道案内をしたり、前方の道路状況を警告したりと、乗員との会話が可能になると考えられている(図4)。

図3. NVIDIA DRIVEのソフトウェア/ハードウェアスタックの構成。出典:エヌビディア
図4. ドライバーモニタリング、ドライバーや車の乗員のための、音声/自然言語/ジェスチャーを使ったユーザーインターフェース、視覚化などの機能を提供する、DRIVE IX。出典:NVIDIA https://www.youtube.com/watch?v=QSrNJdAbUjs

DRIVE Simはリアルタイム・シミュレーションを可能にし、NVIDIAがゲームで磨いた技術を応用し、光の物理的特性をシミュレーションすることでリアルなライティングを再現する。DRIVE Simは複数のカメラ、レーダー、LiDARをリアルタイムで同時にシミュレーションが可能で、レベル2のアシスト運転からレベル4やレベル5の完全自動運転までのセンサー構成に対応できる、とされている。

図4. 図5. DRIVE Simのシミュレーションの中でトレーニングを行う光景。出典:NVIDIA.

多数のロボタクシー新興企業が採用

NVIDIAは、このようなレベルのAI開発をエンド・ツー・エンドで実現できる唯一の企業となっており、多くのロボタクシーメーカーやサプライヤーがNVIDIA製品を使用している。

NVIDIAに深く依存する自律走行技術企業の典型例はZooxだ。ZooxはNVIDIAが開発した高性能な深層学習推論のためのSDK(ソフトウェア開発キット)であるTensorRTを採用している。TensorRTは、Googleが提供するライブラリTensorFlowと比較して大幅なスピードアップを実現し、CUDAストリームを使った非同期・同時推論機能を可能にしている、と同社は主張している。Zooxのビジョン/ライダ/レーダ/予測アルゴリズムは、ディープニューラルネットワークに大きく依存しており、Zooxの車両ではすべてNVIDIA GPU上で動作しており、ほとんどがTensorRTで展開されている。

図6. Zooxの知覚・マッピングシステム。ハードウェア、ソフトウェアともにNVIDIAに深く依存している。

他にも、ロボタクシー企業でNVIDIAプラットフォームの採用を公開している会社はこのようにたくさんある。

  • GMやホンダが出資する自律走行技術企業であるCruiseは、2020年初頭にロボタクシー「Cruise Origin」を発表したが、このための車両にNVIDIA DRIVE GPUを利用しているとされる。Cruiseは2023年にドバイでOrigin車両のテストを開始し、その後すぐに商用の配車サービスを開始する予定だ。

  • 自動運転スタートアップのAutoX社は、最近、中国の深圳で自律走行による配車サービスを開始したが、AutoX社の100台の車両は、AI演算にNVIDIA DRIVEプラットフォームを使用している。

  • 中国の配車大手のDidi Chuxing(滴滴出行)は、NVIDIA DRIVEとAI技術を用いて、モビリティサービス用にレベル4の自律走行車を開発している。年間100億回の旅客輸送を行っているDiDiは、自律走行技術の安全で大規模な適用を目指している。

  • Pony.AIは、トヨタやヒュンダイなどの世界的な自動車メーカーと協力して、NVIDIA DRIVE AGXプラットフォームを中核としたロボットタクシーの開発を行っている。

EV/完成車メーカーの採用も

ジェンスン・フアンはGTCのキーノートスピーチでボルボへのNVIDIA DRIVE Orinの提供を発表している。ボルボは傘下の自律走行ソフトウェア開発会社であるZenseact社が開発したソフトウェアを用いて、Orinの前世代機であるNVIDIA DRIVE Xavier上で新型車のAI支援運転機能を開発している。Orinは、Xavierとソフトウェア互換性があるため、Orinへの移行は、Zenseact社にとって負担にはならない。

中国EVメーカーXpengもNVIDIAプラットフォームを採用している。同社のセダン、P7のレベル3の自動運転機能は、高性能でエネルギー効率の高いNVIDIA DRIVE AGX Xavier AIコンピュート・プラットフォームによって実現されている。

図7. 高度な運転支援機能がついたP7セダンの運転席。コンピューティングプラットフォームはNVIDIA DRIVE AGX Xavierだ。

P7セダンは、安全で便利なAI支援運転のために設計されている。12個の超音波センサー、5個の高精度ミリ波レーダー、14個のカメラを搭載し、360度の認識を可能にしている。この車の前方レーダーは、雨、霧、霞を貫通する200メートルの検出距離を持っている。Xavierは、30ワットの消費電力で毎秒30兆回のAI演算性能を実現し、レベル2+およびレベル3の自動運転システムのプラットフォームの役割を果たしている。

自律走行の採用を掲げるEVメーカーのうち、NVIDIAに深く依存していないとみられるのは、テスラだけだろう。NIOもOrinを採用した自律走行ソフトウェアの開発をすでに発表している。自動車の重要な未来となった自律走行だが、多くの自動車メーカーはNVIDIAなしでは実現できないのだ。

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