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要点
MediaTekは昨年から目覚ましい成長を見せている。同社の株価は昨年の初めから2倍以上に上昇し、今や台湾第2位の企業であり、時価総額は620億ドル。同社の主力製品はモバイル向けのシステムオンチップ(SoC)で、昨年クアルコムの市場シェアを追い抜き、今年は突き放そうとしている。
MediaTekは昨年、クアルコムを抜いて世界最大のモバイルチップセットメーカーとなった。調査会社Counterpoint Researchは、MediaTekは2020年第4四半期の勢いを2021年にも継続し、通年でスマートフォン向けチップセットの全出荷台数の37%のシェアを獲得する可能性が高いと予測している。
MediaTekはQualcommと同様にファブレスのチップ企業であり、チップを設計し、TSMCのような契約チップメーカー(ファウンドリ)に製造を委託している。MediaTekのより手頃な価格のチップセットは、ミッドエンドからローエンドの市場でシェアを獲得している。5Gチップセットでは、クアルコムがまだリードしているが、メディアテックも急速に追いついてきている。同社の収益は1−3月期に前年同期比78%増でクアルコムを上回り、過去最高を記録しており、今期はさらなる収益増を見込んでいる。
米国のファーウェイに対する制裁措置は、MediaTekにとって追い風だ。ファーウェイのスマートフォン、特にハイエンドモデルの多くは、自社のハイシリコン社が設計したチップセットを使用している。しかし、米国の制裁によってファーウェイが機能不全に陥って以来、その市場シェアは、MediaTekの大口顧客である中国のスマートフォンのライバル企業に奪われている。業界調査会社IDCによると、中国のスマートフォンメーカーであるXiaomi(シャオミ)、Oppo(オッポ)、Vivo(ビボ)は、世界のスマートフォン出荷台数の35%を占めており、前年同期は28%だった。これらのスマートフォンメーカーからのMediaTekのチップセットの新規受注は、ファーウェイからの減収分を補って余りあるものだった。
MediaTekの上昇を後押しした一時的な要因もある。今年の初め、テキサス州オースティンにあるサムスンの製造工場が冬の嵐のために閉鎖されたことで、RFIC(無線周波数集積回路)、PMIC(電源管理IC)をこの施設に生産委託していたクアルコムのビジネスが混乱した。Counterpoint Researchによると、この問題は今年の下半期には緩和される可能性が高いとのことだ。
台湾の半導体業界専門誌DIGITIMESもCounterpointと同様の見通しを示している。DIGITIMESがまとめたデータによると、中国の携帯電話ベンダーが使用するスマートフォン用アプリケーションプロセッサ(AP)の出荷台数は、2021年第1四半期に2億1,200万台となり、前四半期比で0.2%増加した。第1四半期の中国におけるスマートフォン用APベンダーのトップは引き続きMediaTekで、そのシェアは9.4ポイント増加し、総出荷数の50%以上を占めた。一方、クアルコムのシェアは同時期に6.9ポイント低下した。
第2四半期の中国市場向けスマートフォンAPの出荷台数は、中国の携帯電話ベンダーからの補充需要が引き続き堅調であることから、前四半期比で9.6%、前年同期比で29.2%増加する見込み。DIGITIMESは、クアルコムはサムスンからの供給成約を第2四半期中には解決できないと見ている。これに対し、MediaTekは、価格性能比が高く、ファウンドリからのサポートも充実していることから、中国での4Gスマートフォン用APの出荷数が大きく伸びると予想している。
しかし、CouterpointのリサーチディレクターのDale Gaiはクアルコムは2021年下半期に強力に立ち直ると考えている。クアルコムは、その差は縮まっているものの、ハイエンドのチップセットではまだ技術的にリードしている。「(クアルコムは)第一に、TSMCでより大きな生産能力を確保し、5Gを中心とした階層型のSnapdragonポートフォリオを強化する。第二に、PMICとRFICの供給を改善するための重要なステップを踏むことで、今後数カ月の間に供給の制約が緩和されるはずだ。これにより、クアルコムは5G SoC市場での主導権を維持し、全体の市場シェアは31%と毎年成長を続けている」。
リサーチアナリストのParv Sharmaは「MediaTekはTSMCを活用し、手頃な価格の5Gポートフォリオを持つことで、5GスマートフォンのSoC/APセグメントでの市場シェアをほぼ倍増させることができるでしょう。MediaTekとQualcommを合わせると、5GスマートフォンSoC市場の需要の3分の2近くを占めているが両者の差は縮まっている」と主張している。
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