動画配信戦争がM&Aを誘発

最上級コンテンツをめぐる「仁義なき戦い」

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要点

動画ストリーミング競争が欧米メディアのM&Aを促している。コンテンツの束を形成できた会社が優位となる環境下で、メディア企業とテクノロジー企業が合従連衡の機会を探っている。


先週は、AT&Tからのワーナーメディアのスピンアウトと、AmazonのMGM買収交渉という、米メディア業界の合従連衡のニュースが飛び込んだ。

動画ストリーミング業界は、Netflixが国際的なリードを築き、AmazonやHuluが追いかける展開をたどってきた。しかし、ディズニーが21世紀フォックスを買収し、Disney+を投入したことでゲームが変化した。3月の年次株主総会で、同社はDisney+の有料会員数が1億を超えたことを報告している。Netflixは成長鈍化の兆しが見えるものの有料会員数が4月発表時点で2億760万人だ。Disney+は15ヶ月でNetflixの半分の会員を引き入れたことになる。

これに対し、ワーナーメディアの傘下のストリーミングサービスであるHBO Maxは、一見、後塵を拝しているように見える。HBO MaxとHBOの米国での有料会員数は4,420万で、世界全体では6,400万人となっている。しかし、同社は今年、製品をより広範囲に拡大することが見込まれており、すでに加入者数の予想を引き上げ、2025年末までにHBO Maxと有料放送のHBOの全世界ユーザー数が1億2,000万人から1億5,000万人に達すると予測した。

有料ケーブル局であるHBOは1972年にスタートし、スポーツ中継などで大きな成功を収めたが、90年代後半から大作ドラマの大ヒットを連発し高品質作品のイメージを決定づけた。ネットワーク局の場合、通常1シーズン22話前後になるところ、話数を絞る事で1話あたりの制作費を大幅に引き上げ、広告ではなく、会員の課金に基づくビジネスモデルにより、放送コードを超えた大胆過激な描写と優れた脚本を採用することができた(Netflixがオリジナルコンテンツを作る際に大いに参考となった)。同社のコンテンツ資産には「セックス・アンド・ザ・シティ」「ゲーム・オブ・スローンズ」「ウエストワールド」「シリコンバレー」等の世界的に有名なドラマが揃っている。

HBO Maxは昨年12月に、同じグループのワーナー・ブラザース・スタジオの2021年の全作品を、映画館での公開と同時にストリーミングで提供すると発表した。これは伝統的なハリウッドの人々を怒らせた。有名監督のクリストファー・ノーランは新作「テネット」が配信される予定だったHBO Maxを「最悪のストリーミングサービス」と呼んで抗議した。だが、配信が映画館への人手にあまり影響を与えないことがわかると、製作者の怒りは収まろうとしている。

様々なプランを展開している配信サービスを比較する有力な手段の一つは、ユーザー1人当たりの平均収益(ARPU)だ。HBO MaxのARPUは、1人あたり11.72ドル。これはNetflixのARPUは14.25ドルには劣るものの、Disney+の4ドル強を上回る。これを踏まえると、Netflixの首位はより盤石なものとなり、Disney+は低い価格設定により有料会員を開拓しており、いつか値上げをしないといけないだろう。一見遅いように見えるHBO Maxの成長は、有料会員に十分な価格を納得させた上で得られた堅実なものだったことがわかる。

Amazonの野望

もう一つの合従連衡にはテクノロジー企業のAmazonが絡んでいる。The Information誌はAmazonが70億ドルから100億ドル規模のMGMとの取引の可能性について交渉していると報じた。業界関係者によると、MGMの担当者は数ヶ月前から買い手候補に90億ドルの価格を囁いていたが、一方で50億ドル程度にとどまるという見方もあるされている。

昨年のAmazonの映像・音楽コンテンツへの支出は110億ドルで、2019年よりも40%多くなっている。視聴者数は1億7500万人で、Netflixの2億800万人には及ばないが、多くの人はほとんど視聴せず、買い物の割引などの特典のためにアマゾンプライムに登録している。

Amazonは他のプレイヤーと異なり、ストリーミングサービス単体での収益化を睨んでいない。動画配信にはアマゾンプライム会員のロイヤルティを高めるという目的が含まれている。翌日配送のようなユーザー体験を主眼に置くAmazonは、流通網や仕入れのコストでEC本体ではほぼ儲けられないが、このプライム会員料がもたらす経常収益は、重要な利益の種である。同時にデータ収集の面でも、メディア事業は欠かせない。顧客の購買行動履歴とともにメディア視聴履歴を収集することで、Amazonは他の小売業者やインターネット企業より優位に立つことができる。Amazonのメディア事業への興味は2014年の9億7,000万ドルでのTwitchの買収でも明らかだ。

Amazonはスタジオを所有しているものの、自社で映画を作ることにはほとんど成功していない。昨年、最大の成功を収めたのは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」や「ザ・レポート」など、サンダンス映画祭で買収した映画だった。今回のパンデミックでの2つの大作、「ボラット」と「Coming 2 America」(日本未公開)も買収した作品だ。特に、エディ・マーフィーの人気コメディーの続編である「Coming 2 America」は、Amazon史上最も人気のある新作映画のひとつだ。

Amazonは、世界中の視聴者にアピールできるような大作映画を公開し、フランチャイズを作りたいと考えている。しかし、Amazonには実績のある役員やスタッフがいない。MGMは、最も人気のある映画フランチャイズのひとつである「007シリーズ」を提供しており、また、マイク・デ・ルカを筆頭とする映画界の重鎮たちも揃っている。

競争は激化が合併買収を促す

ストリーミング業界の競争は、すでに熾烈を極めているが、今後はさらに激化することが予想される。2020年のロックダウンは、視聴者を動画配信サービスへといざなった。リサーチ会社であるミディア・リサーチ社が9カ国で行った調査によると、昨年の第2四半期から第4四半期にかけて、メディアの総消費時間は12%増加した。アメリカの平均的な家庭では、4つのストリーミングサービスに加入している。

しかし、世界にワクチンが行き渡れば、人々がスクリーンの前で過ごす時間が減るだろう。広告代理店Groupmによると、第1四半期のビデオメディアに対する消費者の支出は、前年同期比で2%縮小した。ここ数週間、NetflixやDisneyといった大手配信事業者は、いずれも加入者数の伸びの予測を下回っている。

魅力的なコンテンツとアメリカでの確固たる存在感を持つHBO Maxが、AT&Tの傘の下から出たことは、歓迎すべきことだろう。ただ、同社は海外に自ら進出するのではなく、他国の配信会社にコンテンツをライセンスすることを選択したため、Netflixのように海外市場に成長を求めることが困難になっていた。

だが、ディスカバリーとの合併は、この問題の解決に役立つだろう。新会社は多額の負債を抱えてスタートすることになるが、ワーナーはAT&Tの不確実な財務状況に影響されることはなくなった。また、Discovery+はヨーロッパとインドですでに稼働している。これにより、統合会社は、Netflix、Disney、Amazonと並んで、ストリーミングサービスの最上位リーグで競う準備ができただろう。

では、他の企業はどうなるか。ワーナーとディスカバリーの合併が発表された同じ日に、フランスの大手放送局2社、TF1とM6が合併すると発表した。これは、国際的なストリーミング配信事業者との競争に対して、2社が一緒になって対抗するという意図の表れだ。両社はフランスのテレビ広告市場の4分の3を占めているが、この取引は規制当局の同意を得る必要がある。

そして忘れてはいけないのが、Apple tv+だ。バラエティ誌によると、約4,000万人のユーザーのうち、60%以上が無料トライアルを利用していると言われ、本格的な離陸には至っていない。これまでのところ大ヒットはないが、その気になれば、Appleにはハリウッドをまるごと買い取るのに十分な大量の現金がある。

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