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要点
中国の洋上風力発電市場を牽引する国営再エネ企業である「三峡新能源」が近く上場し、約4152億円を調達すると発表した。中国の再エネ戦略の重要な一角である洋上風力への投資は加速するばかりだ。
国営電力企業中国長江三峡集団(以下、三峡集団)の再生可能エネルギー部門である中国三峡新能源集団(以下、三峡新能源)は規制当局の承認を得て、今年の国内最大規模となる新規株式公開を近く予定していると発表した。同社は昨年、250億元(約4152億円)のIPOが認可されたと発表していた。ブルームバーグがまとめたデータによると、今年中に取引が開始されれば、この上場は2021年の中国での最大の上場となり、1月に浙江省湖州のTianneng Battery Group(天能電池集団)の6億9700万ドルの上場を上回る可能性がある。
北极星风力发电网が入手した上場目論見書によると、調達した250億元のうち200億元を7つの洋上風力発電プロジェクトに、50億元を運転資金の補完に充てるとしている。
証券時報のリサーチによると、三峡新能源の支配株主であり、実質的な支配者は三峡集団です。 現在、三峡集団は三峡新能源の株式140億株を直接保有し、総株式資本の70%を占めている。三峡グループの持株会社である三峡キャピタルは4.99%を占めており、三峡集団は三峡新能源の株式を直接・間接的に74.99%保有している。 財務データによると、2016〜2018年、そして2019年の第1~3四半期において、同社の営業利益はそれぞれ51億7,600万元、67億8,000万元、73億8,000万元、64億6,000万元と順調に伸びており、同時期の純利益はそれぞれ15億3,000万元、24億5,000万元、27億7,000万元、21億8,000万元だった。
親会社の三峡集団は世界最大級の水力発電会社。三峡新能源は中国最大のクリーンエネルギー企業で主な事業は、風力・太陽エネルギーの開発、投資、運営だ。自然エネルギー部門の総資産(主に太陽光発電所、風力発電所、小水力発電所)は1,400億元(約2兆3,200億円)を超えている。株式の発行は5月10日に開始される予定で、同社はその資金を洋上風力発電プロジェクトの資金調達と流動性の補充に充てるとしている。
今回のIPOは、親会社の三峡集団の戦略において再生可能エネルギーの重要性が高まっていることを示している。親会社はすでに複数の上場子会社を持っているが、そのすべてが水力発電会社であり、中国長江電力、湖北能源集団、重慶三峡などがある。バイデン政権が再生可能エネルギーへの投資額を積み増すにつれて、このカテゴリにおける米中の競争が激化しているが、三峡集団は中国政府にとって重要な駒のひとつと捉えられているだろう。
同社は、総資産に占める水力発電の割合が高かったが、近年、再生可能エネルギーへの投資を強化するための戦略的転換を図った。子会社の三峡新能源の再生可能エネルギーのポートフォリオは、2019年末には、陸上風力発電5.3GW、洋上風力発電0.8kW、太陽光発電4.4GWなど、再生可能エネルギーの容量は11.5GWに達している。
しかし、この戦略の転換により、三峡集団は強力な競合他社に直面することになった。その多くは少なくとも10年早く再生可能エネルギーに参入している。例えば、風力発電のパイオニアである国営電力企業の国家能源投資集団(CEIC)は、2019年末までに約38GWの風力発電設備を保有し、大きなリードを築いていた。
三峡は、混雑した市場を避けるため、当時中国ではまだ始まったばかりの洋上風力発電に注力することを選んだ。2010年、同社は江蘇省で125メガワットの盐城市におけるプロジェクトを開始し、中国の洋上に足を踏み入れた。三峡は1GW以上の大型風力発電所を建設することに重点を置き、このコンセプトは野心的な洋上風力発電の目標を採用する福建省政府にも受け入れられ、省内のプロジェクト開発権の半分が同社に与えられた。福建省での成功により、三峡はこの分野で存在感を示すようになったという。
三峡は、中国最大の風力発電機OEMメーカーであり、洋上風力発電機製造のリーディングカンパニーである新疆金風科技の株式を10.52%保有している。一方、三峡は、中国の重要な水力発電機器メーカーであり、洋上風力発電市場で積極的な活動を行っている東方電気と強固な協力関係を築いている。三峡は、東方電気が主導する投資ファンドに出資している。三峡は、発電所設計会社である上海勘測設計研究院(SIDRI)を所有している。同研究所は現在、中国で3本の指に入る洋上風力発電技術研究所だ。オフショア建設についても、福建省の主要な洋上風力発電業者である CREC-Fuchuan Marine Engineering Coを買収している。
海外進出と米国との摩擦
三峡新能源の事業の多くは国内に集中しているが、国際的なエネルギー市場にも意欲を見せている。すでに東南アジア、欧州、南米でかなりの規模の再生可能エネルギーポートフォリオを構築している。
しかし、米国と中国の対立が一向に収まる気配がなく、様々な面で激化し続けているため、国際的な野心は今、不確実性に直面している。米国防総省は昨年8月、三峡集団をはじめとする中国の大手エネルギー企業が、人民解放軍によって所有または支配されていると判断した。
米防総省は、昨年4月からリストを作成し、それ以降、対象となる中国企業を拡大してきたが、このリストは、将来の制裁につながることを意味しているが、具体的な方策はまだ不明だ。
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