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要点
インドネシアのGojekとTokopediaが経営統合を発表した。東南アジア市場の成長の取り分をめぐり、ShopeeとShopee Payで先行するSea Limitedを追走するための連合だ。
インドネシアの2大新興企業である配車大手のGojekとマーケットプレイスのTokopediaは、月曜日に事業を統合してGoTo Groupを設立したと発表した。GoTo Groupは、世界で4番目の人口を持つインドネシアで最大級のテクノロジー企業となる。
経営統合は上場を目標としたもので、GoToは、今年後半にニューヨークとジャカルタでの二重上場を目指して準備を進めている。日本のLINEとZホールディングスの経営統合に似ている。Gojekのアンドレ・スリストヨはGoToのCEOとして、Tokopediaのパトリック・チャオはGoToプレジデントとして、統合事業を指揮。ケビン・アルウィは引き続きGojekのCEOを務め、ウィリアム・タヌウィジャヤは引き続きTokopedia のCEOを務めると、両社は共同で発表した。
ロイターが取材した関係者によると、Gojekの株主が持株会社の58%を保有し、残りをTokopediaの投資家が保有する。GoToの企業価値は180億ドルに落ち着いたという。発表によると、合併会社の取引総額(GTV)は、2020年に220億ドルを超え、1億人以上の月間アクティブユーザー(MAU)を獲得し、インドネシアのGDPの2%を包含するエコシステムになる。
Gojekは、数四半期前からGrabとの合併を検討していたが、今回の買収は、数ヶ月前から計画されていたもの。一方、Tokopediaは、昨年末に今年中の上場を目指して上場準備を進めており、SPAC上場の噂もあった。おそらくGojekとTokopediaはともに単体では目的を好ましい形で達成できないため、今年初めに話し合いを開始し、先月、それぞれの投資家の承認を得るために動き出した。
統合会社の投資家には、Alibaba Group、Astra International、BlackRock、Capital Group、DST、Facebook、Google、JD.com、KKR、Northstar、Pacific Century Group、PayPal、Provident、Sequoia Capital India、SoftBank Vision Fund 1、Telkomsel、Temasek、Tencent、Visa、Warburg Pincusが名を連ねている。
戦況
モバイル決済の革新と普及において世界をリードする中国では、AlipayやWeChatなどのプラットフォームが大成功を収めていることはよく知られている。しかし、世界で最も人口が多く、経済的にもダイナミックな成長ゾーンである東南アジアでは、このトレンドはまだ始まったばかりだ。
2019年にBCGが実施した約5,000人の消費者と加盟店への調査とインタビューでは、コロナパンデミックの発生前から機会の規模が明らかになっていた。デジタルウォレットは、金融包摂を向上させる手段としてよく取り上げられるが、東南アジアの「銀行口座を持たない」都市部の人口セグメント(インドネシア人の約半数、ベトナム人の約3分の2を含む)のうち、電子財布を利用しているのはわずか13%に過ぎなかった。しかし、このBCGの調査では、2025年までに東南アジアの銀行口座を持たない人々の電子財布の普及率は58%にまで上昇すると予想されている。
GojekとTokopediaの主要マーケットであるインドネシアは東南アジアのGDPの4割を占める。Google, Temasek, Bain & Companyによる報告書でも、同地域のインターネット経済の中心地である。
同報告書によると、2020年のECの3分の1以上が新たな顧客によるもので、そのうち10人に8人が今後もオンラインでの購入を継続する意向を持っている。これは、パンデミックによってECを試し、そのまま定着する人が多いということだ。そし、て2025年には東南アジア主要6カ国のECは1720億ドルの流通総額(GMV)になる。2020〜2025年の年平均成長率(CAGR)は23%。
インドネシアでは、2025年にECのGMVが83億ドルに達し、交通・食品分野は16億ドルに達する見込みだ。これが統合会社が扱う市場で、ECではSea LimietdのShopee、Bukalapak、Lazadaが、交通・食品ではGrabが競合している。それぞれの出資者は、Sea Limietdがテンセント、Bukalapak、Lazadaがアリババ、Grabがソフトバンク。今回の経営統合はソフトバンクとアリババが出資するTokopediaとテンセントが投資するGojekのもので、投資家のための出口戦略の色合いが濃い。
オンラインショッピングアグリゲーターのiPrice Groupが発行したEコマースマップによると、Shopeeは2020年に月間平均ウェブサイト訪問者数が9,000万人を超えた。Tokopediaは、月間平均訪問数が8,000万以上で、2番目に人気のあるEコマース市場だった。
最も好調だったのは2020年第4四半期で、Shopeeの月間平均ウェブサイト訪問数は1億2900万件、Tokopediaの月間平均訪問数は1億1400万件。これは、Eコマース企業がユーザー獲得のために競争する年末商戦に起因すると考えられる。
App Annieが記録しているアプリのパフォーマンスでは、Shopeeは2020年第1四半期以降、GoogleのPlayStoreとAppleのApp Storeで常に1位を獲得している。2019年第4四半期からは連続して首位を占めている。
一方、Tokopediaは、2020年第1四半期から第4四半期まで、App Storeで2位に位置。Play Storeでは、Tokopediaは第1四半期から第2四半期まではLazadaに次ぐ第3位に、第3四半期から第4四半期まではSociollaとLazadaに次ぐ第4位に位置していた。
電子商取引や電子財布でのShopeeの優位性は、TokopediaとGojekが最近合併協議に入った要因のひとつだろう。DealStreetAsiaは1月、デカコーン企業が持ち株会社の設立を検討していることや、合併後にTokopediaが保有する決済会社OVOの株式の行方についても話し合っていることを報じていた。統合会社はGojekの決済サービスGoPayを主軸に据えると考えられる。市場の先頭を行くShopeeとShopee PayのECと決済のセットに見劣りしないはずだ。
これで、東南アジア市場を独走するSea LimitedをGrabとGoToが追いかける展開になりそうだ。18日に発表されたSea Limitedの第1四半期決算では、GAAP収益は前年同期比147%増と強烈な伸びを見せた。Grabは第2四半期SPACを介して米国での株式公開を控えている。業績ではSea Limitedに見劣りし、資金燃焼の激しさは解消していないが、400億ドルの企業価値を望んでいる。
参考文献
The digital archipelago: How online commerce is driving Indonesia’s economic development.
e-Conomy Sea 2020. Google, Temasek, Bain & Company.
*その他の参考文献はリンクで示した。
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