中国の電子商取引大手JD.comは、中央銀行が蘇州市で行うデジタル人民元の試験に参加する。蘇州市民には2000万元(約3億2000万円)の紅包が配られる。12月11日に配布され、12月27日まで有効だ。
デジタル人民元を受け取った人は、JD.comのオンラインショッピングプラットフォームで使うことができる。中国がデジタル通貨を大量に配るのは今回が初めてではない。
10月には、中国のテクノロジーハブである深センの市民に抽選で合計1000万元が配られた。共産党機関紙の人民日報が伝えたところによると、テストに参加した麺料理店の責任者はデジタル人民元の優位性として次の2点を挙げた。
まず、店の通信環境がよくない時も、デジタル人民元が使えることだ(オフライン決済)。そもそも、支付宝や微信支付(WeChatペイ)で支払いや受け取りをする時に、店の通信環境に問題があるため、顧客側の端末には「決済完了」と表示されているのに、業者側が受け取れていないということがよくあったという。
次に、デジタル人民元には費用がかからない。支付宝と微信支付を通じて受け取りをすると手数料を払わなければならないが、デジタル人民元は国の法定通貨であり、このルートで受け取れば費用は発生せず、業者側はその分の経費を節約できるという。
人民銀行が先に発表した公告によると、デジタル人民元は全国に先駆けて雄安、成都の将来の冬季五輪会場で都市内限定試験が行われる予定だ。
人民日報によると、これについて専門家の董希■(品の口が水)は、「テストを実施する都市を秩序よく拡大するべきだ。一方では北京、上海、杭州を含む北京・天津・河北地域、長江デルタ地域などのデジタル経済の発展ペースが速い都市をカバーするのがよく、また一方では蘭州、烏魯木斉(ウルムチ)、拉薩(ラサ)などの金融インフラが相対的に脆弱な西部の都市を加えるのがよい」と提案する。
将来、デジタル人民元の応用シーンはより豊富になると期待されている。今年8月末の段階で、全国の試験数は6,700を超えており、生活サービス・各種料金支払い、外食サービス、交通・移動、ショッピング、政務サービスなどの分野をカバーしていた。
共産党系のChina Dailyによると、「デジタル人民元はAlipayやWeChat Payとは異なる。政府がバックアップしたデジタル人民元が基軸通貨であるのに対し、2つのモバイル決済ツールは、人民元で電子的に支払うための民間のデジタルメカニズムである。したがって、デジタル人民元はモバイル決済ツールの死の鐘を鳴らすことはないだろう」とPBOCの高官は述べている。デジタル人民元はデジタルキャッシュそのものであるが、モバイル決済ツールは中国の金融インフラの一部である、と説明している。
JD.comの事例とこのPBOC高官の発言を見る限り、デジタル人民元がAlipayやWeChat Payのビジネスを完全に排除するシナリオを辿ってはいないようだ。それでも、店舗での決済は両者からデジタル人民元に置き換わり、そのデータを基にした貸金業や金融商品の販売、信用スコア等さまざまなビジネスに影響が出る可能性は否定できない。
クロスボーダー決済の試験で国際決済通貨化を伺う
さらに今週、香港金融管理局は現在、中国人民銀行デジタル通貨研究所とともにデジタル人民元の利用を研究し、クロスボーダー決済の技術テストを進めていると明らかにした。中国人民銀行が発行するデジタル人民元「e-CNY」を使った越境決済の技術的なパイロットテストを協議しており、技術的な準備を進めている。香港ではすでに人民元が使用されており、e-CNYのステータスは流通している現金と同じであるため、香港や本土の観光客にはより一層の利便性がもたらされることになる。e-CNYの開始時期はまだ決まっていない。
香港はすでにファスター・ペイメント・システム(FPS)と呼ばれる決済システムを2018年9月に導入している。従来の銀行間送金では、50香港ドルから200香港ドルの間で手数料を支払う必要があり、また、送金が完了するまでに最大2日間の待ち時間が必要だった。FPSは、即時、24時間受付、低コストの送金方法を提供している。
FPSは、異なる銀行やプラットフォーム間で瞬時に資金移動を行うことができ、AlipayやTencentのようなデジタルウォレット業者もその対象に含んでいる。香港金融管理局は、異なる決済プロバイダーのQRコードを1つの標準QRコードに変換するツールをリリースしている。
しかし、この動きはFPSをさらにディスラプトしようとしているのだ。またここからは、デジタル人民元を国際決済通貨とし、ドル覇権に迫ろうという中国の野心が見え隠れしている。中国との通商関係が深い国に対してドルではなくデジタル人民元での決済を求める日はそう遠くないかもしれない。
FBの暗号通貨は「羊の革を被った狼」
ドイツのオラフ・ショルツ財務相は8日、先進国のG7のバーチャル会議で財務相や中央銀行がデジタル通貨の規制の必要性について議論した後、FacebookのDiemについて、「羊の皮を被った狼はまだ狼だ」と語った、とロイターは 報じている。
「規制上のリスクが十分に対処されていない間、ドイツとヨーロッパが市場参入を受け入れないことは明らかだ」「通貨の独占が国家の手に残るよう、可能な限りのことをしなければならない」
これらの発言は、FacebookのDiemが来年1月にドルのステーブルコインを開始するようスイス当局への手続きを進めていることが報じられたことを念頭に入れていることを伺わせた。
G7は同日、10月に発表されたデジタル決済に関するG7共同声明への支持を改めて表明し、デジタル決済は金融サービスへのアクセスを向上させ、非効率性とコストを削減できるが、適切に監督され、規制されるべきであると主張した。
G7諸国は中国に対し、中央銀行デジタル通貨(CBDC)で遅れを取っている。同時にFacebookのDiemという"脅威"に通貨主権を静かに脅かされている。ビットコインは自由主義者とプライバシー主権者のためのニッチな通貨の殻を破ることはできなかったが、Diemはステーブルコインという形態を通じて、従来の暗号通貨の制約を乗り越えようとしている。
国家側の対抗策はCBDCを導入することだが、様々な技術的なハードルがあり、また、先行している中国とFacebookの双方がまだ情報を十分に出していないため、追随が難しい。
中国には先に13億人を対象にしたデジタルペイメントが成立しており、それを支えるクラウドベンダーのアリババクラウドとテンセントクラウドを国内に持っていることが大きい。Facebookには奔放なカルチャーと適用先としての巨大サービスがあり、暗号通貨で実験的なことをしたいエンジニアを集めるのに十分だった。
現状は、13億人からなるイノベーションの実証基盤を持つ中国が優位に立っているように見える。先進国がDiemを認可する可能性は薄い。Facebookに活路があるならば、WhatsAppやFacebookの利用率が高く、自国通貨が安定してないアフリカ諸国との連携なのではないか。
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