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3月下旬、欧州連合(EU)理事会は、EU加盟国全体で相互運用可能な、統合された即時性のある小売決済システムの構築を支持した。EU理事会はリリースの中で「EU加盟国は、消費者が店頭での支払いを容易にし、電子商取引がEU全域で広く利用でき、便利で安全になることを望んでいる」と記述している。
理事会の結論は、欧州連合の決済統合イニシアチブであるSingle Euro Payment Area(SEPA)により、各国の小売決済法の調和が図ることだ。消費者保護と適切な価格設定は、決済ソリューションの採用における重要な推進力だが、SEPAが構築する即時決済システムの1取引あたりの価格は、0.20セント(0.002ユーロ)に固定されている(日本の銀行と決済業者に聞かせてあげたい)。
このようなシステム(およびそれに伴うインスタントペイメント)の開発は、世界的な送金の急速な拡大を背景にしていると、理事会は記述している。しかし、カードやインスタントペイメントをベースにした現状のUE加盟国の決済ソリューションのほとんどは、国境を越えて機能しない。
SEPAの目的は、国境を越えた決済の効率化を図り、これまで分断されていたユーロ決済の国内市場を単一の国内市場にすることだ。SEPAでは、単一の銀行口座と単一の決済手段を用いて、域内のどこにある口座に対してもキャッシュレスでユーロ決済を行うことができる。ユーロ圏の国に銀行口座を持っている人は、新しい国で仕事をするときなどに、その口座を使ってユーロ圏全域で給与を受け取り、支払いを行うことができる。
EU加盟国27カ国は、それぞれ独自の金融システムを有しており、その多くが国内で独自のリアルタイム・ペイメントシステムを導入している。そのため、EU域内でクロスボーダー決済を行うには、各地域のリアルタイムペイメントシステムを相互に接続する必要がある。
このような国境を越えた決済の問題を解決するために、TIPS(TARGET Instant Payment Settlement)システムが導入されたのである。TIPSは、ECBが、より合理的で相互運用可能な汎欧州即時決済レールを構築するために構築したリアルタイム決済ネットワークであり、24時間365日、すべてのEU加盟国間で迅速かつシームレスな資金移動を可能にするものだ。
EUのリアルタイム決済の過去と未来
TIPSが国境を越えた取引に必要な相互運用性を提供できるのは、SEPA Instant Credit Transfer(SCT Inst)のスキームに依存しているからだ。SCT Inst スキームは、インスタント・ユーロ・クレジット・トランスファー・サービスのためのフレームワークだ。これにより、すべてのEU諸国を対象とした地域初のリアルタイムペイメント規制の枠組みが実現した。
SCT Instは、ある銀行口座から別の銀行口座への資金移動を可能にする。SEPAの決済規則では、営業日の締切日前に行われた支払いは、翌営業日までに受取人の口座に入金されることになっている。
SCT Instでは、支払先への入金が即時に行われ、その遅延は当初は10秒未満、例外的な状況では最大20秒となっている。このスキームは2017年11月に開始され、当時はユーロ圏8カ国のエンドカスタマーに対して運用されていたが、最異臭的にはほとんどのユーロ圏諸国、そして潜在的にはすべてのSEPA諸国で利用できるようになると予想されている。
ECBはこのフレームワークに基づいてTIPSを作成し、域内全域にリアルタイム決済機能を提供している。また、TIPSにはマルチカレンシー機能が搭載されており、ユーロを使用していない国でもTIPSネットワークに接続してリアルタイム決済サービスを利用できるなど、将来的な拡張性も秘められている。
この機能は、すでにEU域外の中央銀行の関心を集めている。スウェーデンの中央銀行であるSveriges Riksbankは昨年、ユーロ圏外で初めてこのサービスを利用し、消費者がスウェーデン・クローナで資金を決済できるようにするためにECBと契約した。TIPSの運用が安定的ならば、その引力はより強くなるだろう。
参考文献
Council conclusions on the Commission Communication on a ‘Retail Payments Strategy for the European Union’, 6694/1/21 REV 1, Brussels, 22 March 2021.
Solution: SEPA, the single euro payments area. European Central Bank. Archived from the original on 20 March 2008. Retrieved 28 January 2008.
トビアス・エイドリアン クリスタリナ・ゲオルギエバ. クロスボーダー決済の大きな前進. 国際通貨基金. 2020年10月20日.
参考文献
Council conclusions on the Commission Communication on a ‘Retail Payments Strategy for the European Union’, 6694/1/21 REV 1, Brussels, 22 March 2021.
Solution: SEPA, the single euro payments area. European Central Bank. Archived from the original on 20 March 2008. Retrieved 28 January 2008.
トビアス・エイドリアン クリスタリナ・ゲオルギエバ. クロスボーダー決済の大きな前進. 国際通貨基金. 2020年10月20日.
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