平日朝6時発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、その週に顕在化した最新のトレンドを調べて解説するニュースレターです。同様の趣旨のポッドキャストもあります。ぜひご登録ください。
要点
インドのインターネットトラフィックが急増し、デジタル経済の急成長が伺える。都市部との農村部の双方のインド人が、モバイルインターネットに夢中になっており、中国に並ぶ巨大デジタル経済が生まれようとしている。
インドの通信複合体Reliance Jioは、インドを中心とした最大の国際海底ケーブルシステムを建設している。アジアで最も富裕なMukesh Ambani率いるJioは、世界トップクラスの海底ケーブルサプライヤーであるSubCom社と共同で、「地域全体のデータ需要の異常な増加」に対応するために、2本の次世代海底ケーブルを建設すると発表した。
India-Asia-Xpress(IAX)システムは、インドの東回りでシンガポールを接続し、India-Europe-Xpress(IEX)システムは、インドの西回りで中東やヨーロッパを接続する。IAXシステムは、ムンバイとチェンナイからタイ、マレーシア、シンガポールへの高速接続により、インドとアジア太平洋市場を結ぶ。また、IEXシステムは、インドからイタリアへの接続を拡大し、サボナに着陸し、さらに中東と北アフリカにも届く。
IAXとIEXの海底システムは、アジア太平洋とヨーロッパを越えてReliance Jioのグローバル・ファイバー・ネットワークに接続されており、米国の東海岸と西海岸の両方に接続される。IAXは2023年半ばに、IEXは2024年初頭にサービスを開始する予定だ。
これらのシステムは、世界の主要なインターチェンジポイントやコンテンツハブに接続され、グローバルにサービスを展開。IAXとIEXは、一般消費者や企業ユーザーがインドの内外でコンテンツやクラウドサービスにアクセスする機能を強化する。Reliance Jioの発表によると、これらの大容量・高速システムは、1万6,000kmに及ぶ200Tbps(テラバイト毎秒)以上の容量を提供する。
このモディ政権と密接な関係を持つ財閥による大型設備投資は、インドの5億人のネットユーザー(8億人増える余地がある)の旺盛な需要を意味している。
インド最大級の有線インターネットサービスプロバイダーであるACT Fibernet社が発表したレポートによると、ユーザー1人当たりのダウンロード(下り)が月に平均66%増加したのに対し、ユーザー1人当たりのアップロード(上り)は月に平均37%と急増した。このデータは、2020年2月から4月までに19都市で計測された全体のトラフィックデータに基づいている。
インドインターネット・モバイル協会(IAMAI)とニールセンの最新報告書によると、インドのアクティブなインターネットユーザーは5億400万人に達し、そのうち約14%が5~11歳の年齢層で占められている。
また、「Indian Readership Survey(IRS)2019」のデータに基づき、インドのアクティブなインターネット人口の約70%がデイリーユーザーであることも明らかになったと報告書はうたっている。インターネットに費やす時間は、インドの農村部に比べてインドの都市部で引き続き高くなっている。
報告書によると、インドの農村部のインターネットユーザー数は、都市部のユーザー数よりも約10%多くなっている。ソーシャルネットワーキングやチャット、エンターテイメントなどのアクティビティが農村部での利用の大半を占めているが、農村部のユーザーがより進化していくにつれて、オンラインでニュースを見たり読んだり、Eメールを送ったりするアクティビティが次の成長の波となると想定されている。
深刻なコロナパンデミックは人々のデジタル行動を飛躍的に増加させているようだ。Atria Convergence Technologies Ltd.のCEOであるBala Malladiはステートメントの中で、「この2ヶ月間で、人々が自宅で仕事をするようになり、コンテンツのストリーミングに費やす時間が増え、オンラインゲームを楽しんだり、オンラインの授業や講座を受けたり、ビデオ会議をしたりするようになったため、データ消費量が各都市で大きく変化していることがわかった」と語っている。ストリーミング・トラフィックは全体的に55%増加した。平日は73%、週末は65%のトラフィック増加が見られたという。
モバイルインターネット
インドのインターネットは新興国の典型であるモバイル主導型だ。家計に余裕が生まれると、人々は三種の神器(テレビ・洗濯機・冷蔵庫)よりも先にスマートフォンを買う。長らく中国沿岸部で製造された100〜200ドルの電話機が輸入されてきたが、政府が国内生産に税制優遇を設けたことから、iPhoneの外注製造パートナーがインド工場を建設したように、組立拠点の移転が起きつつある。
Counterpoint社のMarket Monitorサービスの最新調査によると、インドのスマートフォン出荷台数は、2021年第1四半期に前年同期比23%増の3,800万台以上に達した。これは、第1四半期の出荷台数としては過去最高だ。中国ブランドが75%のシェアを占めている。Xiaomiが26%のシェアで市場をリードし、Samsung、vivo、realme、OPPOが続く。
ただアプリでは中国勢への逆風が吹いている。政府は中国との国境紛争が激化して以降、TikTokを含む59のアプリの流通を停止した。インターネット企業への投資では、一時は中華系が大きなパイをもっていたものの、米系ファンド・企業が巻き返し、支配的になろうとしている。
ICRIER(Indian Council for Research on International Economic Relations)とBroadband India Forumの調査によると、2015-16年のインドのGDPに対するインターネットの寄与は5.6%だった。2020年には、この寄与は16%にまで拡大し、そのうち8%はアプリが牽引している。インターネット経済は、2020年にはインドのGDPに最大5,374億ドルをもたらし、そのうちアプリによる寄与は最低でも2,709億ドルに上るとされる。アプリは、モバイルトラフィックの70%を占めていた。
インドのデジタル経済は著しい成長の中にあり、ダイナミックな変化を続けている。中国に並ぶ巨大経済が生まれようとしている。
参考文献
*他の参考文献はリンクで示した。
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