Alphabetがカナダの「未来都市」開発から撤退

スマートシティは中国の独走かトヨタ・NTT連合が追いつくか

Alphabetが所有するSidewalk Labsは、経済の不確実性とトロントの不動産市場が苦境に陥っていることを理由に、トロントでのスマートシティ開発プロジェクトを断念したと、同社の共同創業者でCEOのDan DoctoroffがMediumに投稿した。

トロントの12エーカーの開発は、スマートシティ技術の約束を証明するものとして機能することを意図していた。Sidewalk Labsは「気候に優しい」「手頃な価格」「公共交通機関に優しい」コミュニティというビジョンを構築するために、39億ドル以上の資金提供を約束していた。

しかし、2019年にSidewalk Labsは、プライバシーを心配する地元住民からの批判を受け、その計画を縮小せざるを得なかったとカナダのThe Globe and MailのJosh O'Kaneは書いている。地元テレビ局TVOのJohn Michael McGrathは、米国人とカナダ人の文化の違いが響いたことと、2018年の地方選挙でSidewalk Labsに懐疑的な保守派が勝ったことなどを背景に指摘する。

Sidewalk Labのトロント開発の中止は、自治体が予算を削減する中、北米のスマートシティへの支出が減少することを示唆している。

長期的に米国の都市では富の二極化が進展している。一部の高スキル/高所得者にとっては好ましいものの、高卒以下の人にとっては、戦後のアメリカが表現したような「アメリカの中流」の繁栄を約束しなくなり、不動産価格が高騰し、インフラへの投資は滞り、低所得者は医療にアクセスできない。かつて「クリエイティブ都市」ともてはやされた大都市は、クリエイティブな人をギグワーカーとして搾取し、郊外では中年男性がオピオイド依存症による「絶望死」を遂げる。

スマートシティはこのような現状を変える潜在性を持っていたため、撤退は米国の都市の未来に暗い影を落とす結果となった。Sidewalk Labsの挑戦はトロント以外で模索されるだろう(日本の都市も名乗り出てみるのもいいと思う)。

Sidewalk Labsとは

Sidewalk Labsは、先進的な都市デザインと最先端のテクノロジーを融合させ、都市生活を根本的に改善することを目指す会社だ。2015年の設立以来、当社はニューヨークとトロントを中心に100名以上の従業員を擁する組織に成長した。私たちの学際的なチームは、不動産、都市計画、政府、金融、テクノロジー、エンジニアリングなどの専門家で構成されている。

彼らがトロントで成し遂げようとしていた数多のことのなかから興味深い2つを紹介してしてみよう。

生成的デザイン Generative Design

都市計画は建築家、エンジニア、ビジネスが混ざり合う非常に時間を要するものだった。建築家はある種のソフトウェアを使って太陽光をシミュレートし、エンジニアは別のソフトウェアを使って道路を計画し、不動産開発業者はスプレッドシートで経済学をモデル化するなど、今日では、計画チームの様々な専門家が別々の分析を行うことがよくある。

これらの課題を解決するため、Sidewalk Labsは独自にジェネラティヴ(生成的)デザインツールを開発している。チームは機械学習を活用した「コンピュテーショナルデザイン」で数百万、数十億もの包括的な計画シナリオを生成する。これらの異なるシナリオが主要なQOL(生活の質)指標に与えるあらゆる影響を評価し、コミュニティの優先順位を最もよく反映した選択肢のセットを作成するのに役立つ。

たとえば、2 x 2のブロック(街区)では、コミュニティは3つのプライオリティ、オープンスペース、日当たり、密集を設定したとしよう。生成的デザインツールは、数千の開発計画を生成し、その結果、当初の(人間が行った)開発計画を大きく上回る計画を3つも提案した。生成的デザインツールは、計画におけるさまざまな変数間のトレードオフを評価するのに役立つ。コミュニティが優先事項を決め、その結果生成された有望な計画から選べばいいため、彼らが計画に参画するのを助けることになるだろう(この動画がわかりやすい)。

Open space — 45.3%、Daylight access — 49%、Total gross floor area (GFA) — 1,513,144 square feetの開発シナリオ例。Source: Sidewalk Labs.

現代的な木材による建築 Pmx

現在、木材は「マス・ティンバー」と呼ばれる新しい耐火性のあるスーパーウッドの形で、建材として新たな可能性に復活している。マス・ティンバーが気候変動との戦いに貢献する可能性を強調している人もおり、また、デベロッパーはマス・ティンバーの建築部品がいかに効率的な工場生産に適しているかに興味を持つ。

Sidewalk Labsはこの建材で35階建ての高層ビルを作る計画を進めていた。35階建てのマスティンバーのプロトモデルであるPMXの性能を把握するために、チームは同規模の従来のコンクリート建築物と比較してどのような性能を発揮するかをモデル化。PMXはコンクリートの約2.5倍の軽さがあり、風の解析をしたところ、PMXは40階建てや50階建ての建物のような反応を示していることがわかった。

PMX外骨格システムは、建物のファサードを横切る大きな木の梁で構成されています。建物の外部にブレースを移設することで、全体的にがっちりとした壁や間仕切りを設けるのではなく、外骨格システムは内部の間取りを開放し、より高い高さではるかに多くの使用可能なスペースを可能にした。

木材の外骨格は、床板の効率を最大化するという点で、他の構造システムよりも優れたパフォーマンスを発揮した。(イメージはマイケル・グリーン・アーキテクチャー、ゲンスラー、アスペクトによる)。Source: Sidewalk Labs

中国がスマートシティのリーダーに

中国の大手テック企業テンセントは、テンセントは、深セン市銭海湾にある約81万平方メートルの埋立地の利用権を取得した。深セン宝安国際空港の南14キロの敷地に、クラウド技術、医療技術、教育技術、スポーツ技術に特化した施設を開発する権利と、ホテル、学校、アパートなどを開発する権利に関連して、合計85.2億元(12.1億ドル)を市に支払うことで合意した。

大手テック企業アリババはアリババクラウドの製品として「シティブレイン(City Brain)」プロジェクトを推進している。杭州市では、シティブレインは、交通渋滞の防止や緩和を目的とし、市内の1,000以上の道路信号を調整しながら、リアルタイムで情報を分析する。本製品は他の中国のいくつかの都市で利用されており、2018年にマレーシアの首都クアラルンプールで導入された。

シティブレインは都市視覚知能エンジン(CVIE)や天慶(Tianqing)などの製品から構成される。CVIEは、先進的な画像・映像処理技術とコンピュータグラフィックス技術を駆使して、都市の視覚データの価値を集約、分析、インデックス化、発掘するための都市規模の人工知能インフラストラクチャを構築する。交通、セキュリティ、都市建設、都市計画、電力スケジューリングなどの実務問題の解決を支援する。天慶(Tianqing)は総合的な大規模ビジュアルコンピューティングソリューションを提供する。

中国の都市では、交通だけでなく、高いレベルのサーベイランス(監視)による犯罪の検挙や抑止が実行されている。監視カメラによる顔認識のほか、各種のコネクテッドデバイスを利用した包括的な監視には、市民の自由と厚生のトレードオフ、という深い懸案があり、中国は厚生を選んでいる格好だ。これについてはこのブログで触れている。

トヨタの「ウーブン・シティ」

トヨタ自動車は、2020年1月に開催されたCES 2020において、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクト概要を発表した。2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本株式会社 東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用して、様々なパートナー企業や研究者と連携しながら、実証実験を進めることを決定した。トヨタ自動車は、この街を「Woven City」(ウーブン・シティ)と名付けている。

「Woven City」のイメージ。出典:トヨタ自動車

都市のマスタープランでは、道路利用の指定を3つのタイプに分けている。それは、高速車専用、低速・パーソナルモビリティ・歩行者の混在、歩行者専用の公園的な遊歩道、である。「これら3つのタイプの道路が有機的なグリッドパターンを形成し、自律性のテストを加速させる」とトヨタは説明している。

この都市は、二酸化炭素排出量を最小限に抑えるために、日本の伝統的な木材の接合方法とロボットによる生産方法を組み合わせて、建物のほとんどが木材で作られており、完全に持続可能な都市になるよう計画されている。

日本でも3月にトヨタとNTTによる業務資本提携の中心が「スマートシティ」である。NTTは、革新的な技術によってスマートな世界を実現するIOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)構想を提唱してきた。

中国のスマートシティとは異なる独特なアプローチを日本勢ができるかが、重要な焦点になりそうだ。

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今週のニュース

ロックダウンを解消する国も見られるが、コロナ禍の世界経済への影響は前例のないレベルに達している。第二波の予兆が見られた国もあり、コロナとの長期的な戦いが続いていく。

  1. FRB「米経済が前例のない下振れリスクに直面」。パウエル議長は「2月まで色の合った年収4万ドル以下の世帯の4割近くが、3月に失職」と指摘。トランプが進める経済対策パッケージでは十分ではない可能性もある。

  2. 中国「積極的な財政政策が必要」。リュウ・クン財政部長は「中国は経済への圧力が依然として高まっているため、より積極的な財政政策を必要としている」と語っている。

  3. 中国製造業にコロナショック「第2波」。4月30日に発表された4月の財新中国製造業購買担当者指数(製造業PMI)は49.4と、V字回復を見せた3月の50.1から0.7ポイント低下。好不況の判断の目安とされる50を割り込み、製造業の景況感が再び悪化。

  4. インドが2600億ドルを超える経済救済策を発表。GDPの10%に当たる巨額政策。インドの厳格なロックダウンとパンデミックによる世界的な混乱は、インド経済を特に厳しく直撃し、何百万人もの貧しい人々を失業に追いやっている。

  5. イーロン・マスクのボーリングカンパニーは、ラスベガス・コンベンションセンターの地下に2本目のトンネルを掘り終えた。来場者を会場の片側からもう片側にシャトルする「ピープルムーバー」システムを構築する5,250万ドルのプロジェクトの第1段階が終了した。

  6. UberがGrubhubの買収を打診との報道。時価総額はUber億に対し56億ドルと10倍。Uberは配車ビジネスが復活しない場合、フードデリバリーを主要事業にする考えなのだろうか。

  7. 著名人工知能研究者のFei-Fei Li博士がTwitterの独立取締役就任。Li博士はスタンフォード大学教授(コンピュータ科学)、以前はGoogle CloudのAI/MLのチーフサイエンティストを務めていた。

  8. 「非接触のほうが便利、ペイ系は『こない』と思っていた」(カンム・八巻渉)。キャッシュレスマーケットは76兆円くらいで、そのうち60数兆円はクレカが占めています。残り10数兆円のうち、Suicaなど電子マネーが5.5兆、おそらく2兆程度をペイ系。

  9. 偽フォロワーと検出ツールの軍拡競争。インスタグラムでの偽フォロワー採用はインフルエンサーの基本戦術化。少なくとも9,500万の偽造が認められている。広告主の損失は13億ドルに上るとの推計もある。

  10. 大麻を栽培するためのAIが登場。AWS DeepLensカメラとマイクロコントローラーを使用して、雑草を検出するようにモデルをトレーニングし、除草剤で除草できるという。

▼ニュースレターの著者:吉田拓史(@taxiyoshida)

記者, 編集者, Bizdev, Product Manager, Frontend Engineer. ジャカルタで新聞記者を5年. DIGIDAY日本版創業編集者を経て, デジタル経済メディアAxion(アクシオン)を創業. ■プロフィールサイトLinkedIn. ■Twitter ■Blog ■You Tube ■Podcast

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