平日朝6時発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、最新のトレンドを調べて解説するニュースレターです。同様の趣旨のポッドキャストもあります。ぜひご登録ください。
要点
ビットコインは環境負荷が高く、拡張性に課題があり、日常の決済手段に採用することは難しい。バブルがピークアウトを迎えたように見える今、「ビットコインの次」を探す段階を迎えた。
テスラのCEOであるイーロン・マスクは、日曜日の午後、テスラが保有する残りのビットコインを売却する可能性があることをツイッターで示唆した。その結果、暗号通貨の価格が暴落した。
そのツイートでマスクは「私たちは、ビットコインのマイニングと取引のため、化石燃料、特にあらゆる燃料の中でも(CO2の)排出量が最悪である、石炭の使用が急増していることを懸念している」と記している。テスラは先週の水曜日、「ビットコインの採掘に化石燃料の使用が急増している」ことを懸念して、ビットコインでの自動車購入を中止していた。
ビットコインは、2009年の開始以来、多くのファンを獲得してきた。かつてはアナーキストや Redditors、ゲーマーの間でしか使われていなかったこのデジタル通貨は、もはや個人投資家の投機を言ってに集める場所となっている。2月、マスクは、15億ドルをビットコインに投資し、電気自動車の購入代金としてトークンの受け取りを開始すると発表した。一夜にして、ビットコインの価格は記録的な46,000ドルに達した。
最も個人投資家に影響力を持つ人類であるマスクは考えを改めたようだ。「暗号通貨は様々なレベルでいいアイデアであり、約束された未来だと信じているが、環境への大きなコストは許容できるものではない」。
なぜビットコインはエネルギー消費を消費するか
なぜビットコインはここまでエネルギーを食うのだろうか。それは、ビットコインのマイニング(採掘)において軍拡競争が起きているからだ。
採掘者は、ビットコイン取引の最新の「ブロック」を登録するために、暗号パズルを解いて競い合うが、これは非常にエネルギーを必要とするプロセスだ。ビットコインの生産量が増えれば増えるほど、パズルの難易度が上がる。そのためには、より強力なコンピューターを使い、より多くのエネルギーを必要とする。採掘によって確実な収益が得られるため、マイナー(採掘者)はその一部を得るために電力を大量に消費するマシンを動かすことをいとわない。それにもかかわらず、このビットコインが一度に検証する取引のブロックは1メガバイトになるように調整されている。
現在、ビットコインの年間電力消費量は148テラワット時と推定され、アルゼンチンやフィリピンのような国よりも多くなっている。採掘者は豊富な電気を求めて、余剰電力を持つ世界中の発電所の近接地にマイニングファームを設置したり、太陽光発電システムを併設したりしている。
各国政府も注目し始めている。マイニングの70%が行われている中国では、規制当局がエネルギー消費への影響をより正確に把握するため、マイニングに関わるデータセンターの調査を行っている。北京市経済情報技術局は4月、市内のデータセンター事業者に対し、ビットコインやその他の暗号のマイニングに関与しているかどうか、またその事業で消費される電力の割合を報告するよう「緊急通知」を出した。今後、規制が導入される可能性もある。
決済手段としても未成熟
また、ビットコインはクレジットカードやモバイル決済を代替する存在とは言えない。ビットコインは取引が集中するとすぐにパンクするのはよく知られたことだ。
決済ネットワークVisaは、2013年の連休中にネットワーク上で毎秒47,000件(TPS)のピークトランザクションを達成し、1日平均で数億件の取引をさばいている。これに対し、ビットコインは1メガバイトのブロック制限で1秒間に7回以下のトランザクションを担保できるのみだ。Visa相当の性能を実現するには、ブロック1つを8ギガバイト(現状のブロックの8,000倍)まで増やさなくてはいけない。ビットコインネットワーク上でVISAのような容量を達成することは、全く現実的ではない。
このような課題の解決策だと思われたのが、Lightning Network (LN)と呼ばれる少額決済の仕組みだった。LNは、VISA並の性能を達成するため、ビットコインのブロックチェーンを離れてチェーン外取引を行うアプローチを採用している。LNは2万以上の"自主的"な取引中継点の提供者によって成り立っており、発生したトランザクションは一度精算された後に、メインのビットコインのネットワークで処理されるため、頻繁かつ大量の取引に対応できると説明されている。
しかし、LNにはシビアな課題がいくつかある。1つはセキュリティだ。昨年10月の段階で少なくとも4つの脆弱性が指摘されており、その解決を待っている段階だ(脆弱性には"Hodl my Shitsig"等の非常に魅力的な名前が付けられている)。お金を扱う性質上、あらゆるセキュリティホールの可能性に留意しなくてはならず、小規模のテストを繰り返して前進する手法が使えないのだ。
もう1つはあまりにもテクノロジー精通者向けであることだ。LNの熱心な参加者とは異なり、多くの人にとってビットコインは投機の対象だ。彼らはネットワーク効果が生じているクレジットカードやモバイルペイメント等の選択肢がある中で、専門的な素養を必要するLNを選ぼうとはしない。
ビットコインの次
ビットコインではない方法で問題を解くほうが得策なのは間違いない。暗号通貨コミュニティは様々な対案を試してきたし、おそらく今後より好ましいものが出てくるだろう。マスクのツイートの最後の文にはこのように記されている。「我々はビットコインの1%以下のエネルギーしか使用しない他の暗号通貨に目をつけている」。
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