毎週火・金曜日発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、その週に顕在化した最新のトレンドを調べて解説するニュースレターです。同様の趣旨のポッドキャストもあります。ぜひご登録ください。※GWの4/29〜5/5はニュースレターをお休みします。
要点
再生可能エネルギーは驚異的な速度で安価になっている。現状のイノベーションが継続されれば、再エネが化石燃料発電所を建設するよりも費用対効果に優れるようになり、完全な代替手段となる可能性が高まっている。
太陽エネルギーと風力エネルギーは、2050年までに化石燃料に完全に取って代わり、世界の電力源となる可能性があると、シンクタンクCarbon Trackerが23日に発表した報告書が主張した。報告書は、風力発電と太陽光発電が現在の成長軌道を維持した場合、2030年代半ばまでに化石燃料を電力部門から追い出すだろうと予測している。
現在の技術では、太陽エネルギーと風力エネルギーから少なくとも年間6,700ペタワット時(PWh)の電力を賄う力があると一部の研究者は主張している。たとえば、スタンフォード大学教授のマーク・ヤコブソンは、2020年時点で太陽電池の総発電可能容量は年間17万PWhであると計算している。
6,700PWhは、2019年に世界で消費されたエネルギー量の100倍以上にあたる。2019年に発電された太陽光発電は0.7PWh、風力発電は1.4PWhにとどまったが、報告書の著者らは、発電コストが下がり続けることで、太陽光発電と風力発電の発電量が飛躍的に伸びる可能性が高いと主張している。年間15%の成長率であれば、2030年代半ばには世界の全電力を太陽光と風力でまかない、2050年には世界の全エネルギーをまかなうことができると試算している。
もちろん、現在の成長トレンドを前提として数十年のスパンの予測をしているため、Carbon Trackerの試算に確実性を求めるのは困難だろう。ただし、この10年間、再エネのコストが急激に落ちているのは、まごうことなき事実だ。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が昨年6月に発表した再エネのコストを算定した報告書によると、2010年から2019年の間に、実用規模の太陽光発電(PV)の平準化発電原価(LCOE)は82%減少し、集光型太陽熱発電(CSP)のLCOEは47%、陸上風力発電は39%、洋上風力発電は29%減少したことが、IRENAの再生可能エネルギーコストデータベースで示されている。
報告書によると、太陽光発電と風力発電のコストは、設備とプラントのコストが低下し、風力発電の場合は技術の向上により容量係数が高くなったため、2019年も引き続き低下した。実用規模の太陽光発電による電力コストは、2019年に前年比13%減となり、1キロワット時(kWh)あたり0.068米ドルに達した。2019年に稼働したプロジェクトでは、陸上風力と洋上風力の世界加重平均LCOEがともに前年比で約9%減少し、それぞれ0.053米ドル/kWh、0.115米ドル/kWhとなった。また、最も開発が遅れているCSPのコストは、1%減の0.182米ドル/kWhとなった。
実用規模の太陽光発電と陸上風力のLCOEは、2021年には0.039米ドル/kWh、0.043米ドル/kWhまで低下する可能性があるため、新規の再生可能エネルギー発電プロジェクトは、増加している既存の石炭火力発電所の限界運転コストよりも安く、石炭火力発電所を新たに解説することは、座礁資産が増加するリスクが高まっている。
報告書はこう主張する。「競争力の低い5億kWの既存の石炭火力発電所を廃止し、太陽光発電や陸上風力発電に置き換えることで、システムの発電コスト、さらには消費者に転嫁されるコストが、2021年の石炭価格や石炭火力発電の容量係数の推移に応じて、年間120億ドルから230億ドル削減されることになる。競争力の低い既存の石炭火力発電所を5億キロワット退役させることで、石炭発電量は2170テラワット時(TWh)ほど減少し、二酸化炭素(CO2)排出量は1.8ギガトン(Gt)削減される(2019年の世界のCO2排出量の5%)。5億kWの石炭の代替は、過去1年間の太陽光発電と陸上風力発電の導入を上回る9,400億米ドル相当の刺激となり、世界のGDPの約1%に相当する」。
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校技術社会学部助教授で、ローレンス・バークレー国立研究所の国際エネルギー分析部門の客員教授でもあるGang Heらが昨年5月にNature Commnicationsに発表した記事は、自然エネルギーのコスト減のトレンドが継続した場合、2030年までに中国の電力の62%を非化石資源で賄うことができ、そのコストは通常のビジネスモデルで実現した場合よりも11%低くなることを示している。さらに、中国の電力セクターは、通常のビジネスモデルと比較して約6%低いコストで、2015年の二酸化炭素排出量の半分を削減することができる、と主張している。彼らは試算のために、1時間ごとのデータを利用して、運用上の制約に基づいて電力系統計画をシミュレートし、最適化する「SWITCH-China容量拡張モデル」というものを利用した。
特に太陽光発電は、熱狂的な支持者の期待を上回る素晴らしい成果を上げてきた。強気のソーラー投資家であるラメズ・ナームは「めちゃくちゃ安い」太陽光発電の予測を再調整した。ナームは、2030年までに世界の日照時間の長い地域では、大規模な太陽光発電所を一から建設する方が、減価償却の終わった化石燃料の発電所を稼働させるよりも安く電力を得られるようになると考えている。
ナームがIRENAなどのデータを使用して算定したところによると、2010年から2020年までの間に、実用規模の太陽光発電プロジェクトの電力価格(補助金なしの費用)は、5分の1から8分の1の範囲に低下した。また、この10年の中頃から太陽光発電所の新設が原始的なコストで競争力を持ち始め、化石燃料による発電所の新設よりも安くなってきている。
IEAの「持続可能な開発シナリオ」では、地球温暖化を2℃以下に抑えるために、太陽光発電を年率16%で成長させるとしているが、ナームはこの年率16%の成長を前提条件とし、世界平均と3カ国(米国、インド、中国)のコストの両方を網羅した4つの異なるソースからのデータを使用することで、将来の太陽光発電のコストを予測した(下図)。その結果、太陽光発電のコストが驚くほどの速さで低下し、2030年または2035年には世界の日照時間の長い地域の平均価格が1セントか2セントになると予想した。この仮定の上では、仮に超安価な天然ガスが生まれたとしても、すでに建設されている化石燃料の発電所を稼働させるよりも、新たに太陽光発電設備を建設する方が安くなる。
参考文献
He, G., Lin, J., Sifuentes, F. et al. Rapid cost decrease of renewables and storage accelerates the decarbonization of China’s power system. Nat Commun11, 2486 (2020). https://doi.org/10.1038/s41467-020-16184-x
※その他の参考文献はリンクで示した。
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