
今週は中国企業の動きが目立った。
中国のテクノロジー業界では、バイドゥ、アリババ、テンセントの「BAT」が主流だが、第2集団の「TMD」の台頭が著しい。Toutiao(運営のバイトダンス)、Meituan Diangping(美団点評)、Didi Chuxing(滴滴出行)の3社だ。そのなかでも、バイトダンスは突出した成功を収めている。
バイトダンスは2019年の純利益30億ドルを達成した、とBloombergが今週報じた。報道によると、収益は2018年の74億ドルから2倍以上の170億ドルに到達。TikTokとDouyin(中国国内のTikTokの呼称)の5月のアプリ内購入額は、新型コロナの追い風を受け、平時の10倍である7,800万ドルとなり、YouTube、Tinderのような有名企業を超えた。
2010年代に創業した新興企業がBATの三強の一角を崩した格好だ。2019年上半期には、バイトダンスは中国のデジタル広告費の23%を占有した。これは500億元(70億ドル)に相当する。33%のアリババには及ばないものの、14%のテンセントを凌いだ。
企業価値が高騰している。未上場であるバイトダンスの企業価値はセカンダリーマーケットで1050億〜1100億ドルと算定されており、1400億ドルでの取引が成立したこともあるとされる。
Bloombergによると、バイトダンスは、新規株式公開で1500億ドルから1800億ドルの時価総額を得る可能性がある、とシンガポールを拠点とするDZT Researchのアナリスト、Ke Yanは推定している。世界的に事業規模が大きく、ゲーム事業が急成長していることから、ソーシャルメディア大手テンセントの売上高の20%と比較した際、プレミアムがつくとYanは予測する。
2019年最大のテックIPOはUberだったが、仮にバイトダンスが近くIPOを遂げるとすると、2倍以上の規模を達成することになりそうだ。Uberは上場以降、ビジネスの多角化に悩み、コロナ禍の大打撃を受けたが、バイトダンスは対照的な印象だ。同社は黒字化されており、AI駆動の価値提供のあり方を広げるべき領域が、教育、ゲームなどのように明確に存在する。
コロナウイルスの感染拡大は、デジタルエンタテイメント企業の同社にとっては、大きな追い風になった。月間15億人のユーザーが、同社が提供するAI駆動のアプリに時間を割いている。国内ではDouyinが、eコマース・プラットフォームとしての側面を強化し、1日4億人のユーザーの収益化。ライブストリームで商品を売るために、人気ハイテク企業の重役を採用し、数千万人の視聴者を集めている。
アプリ調査会社センサータワーによると、主力アプリのTikTokは2016年にローンチして以来、アプリのダウンロード数は20億回を超えている。Toutiao(今日头条)は、1.2億人のユーザーを誇り、深層学習アルゴリズムを利用し、パーソナライズされた高品質のコンテンツフィードを提供している。
急速な事業拡張
このような業績の好調さと、資金調達が容易な状況が、バイトダンスを急速な事業拡張に導いている。同社は約6万人の従業員を擁するが、世界中の多くのテクノロジー企業がレイオフを余儀なくされている世界的な冷え込みに逆らい、1万人の新規雇用を目指していると言われる。
同社はラテンアメリカ事業のデータアナリストから、深センを拠点とするゲームプラットフォームのオペレーションマネージャーまで、世界中で1万人以上の求人を募集している。さらに、社内の採用掲示板によると、3,000人のインターンや、大学卒業予定者を募集しているようだ。
同社は、手厚い給与と福利厚生で知られており、シリコンバレーに拠点を置くスタートアップ企業に近い福利厚生を提供している。募集広告によると、従業員は毎日3食無料で「無制限の軽食」やジムの会員権を受け取れる。
Disney+の担当役員を引き抜く
さらにこの過熱する人材獲得のなかでも、バイトダンスがグローバル企業としての地位を固めたと印象づける出来事が、ディズニーのストリーミング事業担当役員のケビン・メイヤーの引き抜きだ。メイヤーはショートフォーム動画アプリ「TikTok」のCEOに就任し、バイトダンス本体のCOOにも就任した。
メイヤーには、有望なコンテンツ製作会社の企業買収を手掛けることが求められている可能性がある。メイヤーはディズニー在籍時、ピクサー、マーベル・エンターテインメント、ルーカスフィルム、クラブペンギン、メーカー・スタジオの買収、および2017年12月に21世紀フォックスの映画関連事業の買収に関与したとされている。
これらの買収は、ディズニーにとって重要な資産をもたらしており、Disney+に対して豊富なキラーコンテンツを供給するのにも役立った。スマートフォン向けの短尺動画を制しているTikTokが、より高品質な長尺コンテンツへの拡大を検討することは、想像に難くない。
先週のニュースまとめ
1. Pinduoduo(拼多多)が急成長
TMDに分類されないが、EC プラットフォーム Pinduoduo(拼多多)も未曾有の躍進を遂げている。同社は、22日に発表された20Q1決算では、Pinduoduoは9億2380万ドルの収益を報告した。オンラインショッピングの需要が急増しているため、証券会社の収益予想を上回った。純損失は前年同期の18.8億元から41.2億元に拡大した。 報告によると、中国国内でコロナ対応を迫られた3月には一日あたり5000万件の注文数があり、いまやアクティブバイヤーを6億人以上抱えている。
同社の株価は5月だけで50%近く上昇。時価総額は5月27日現在、720億ドルに到達し、未上場のDidiの企業価値を超えていると推定される。同社は創業から4年しか経っていない。
2. 美団点評が持ち直す
フードデリバリーを中心とした生活総合サービスを提供するMeituan Diangping(美団点評)は5月25日に2020年第1四半期決算を発表した。パンデミックの影響で、同社の収益は2019年同期の192億元(約2900億円)から168億元へと前年同期比12.6%減少。営業損失は前年同期の13億元から17億元に拡大し、営業利益率はマイナス6.8%からマイナス10.2%に低下した。
「フードデリバリー事業は、2020年の第1四半期において、供給側と需要側の双方において大きな課題に直面していた」と、同社は決算書の中で説明している。「2020年の残りの期間に向けては、パンデミック対策の継続、消費者のオフラインでの消費活動に対する十分な自信のなさ、加盟店の閉鎖リスクなどの要因が、引き続き当社の業績に潜在的な影響を与えると予想している」。
ただ、食品宅配の注文は5月中旬までにパンデミック前の90%まで回復し、団体購入ビジネスは80%まで回復、ホテルの予約は70%を超えたという。26日の香港では美団点評の株価は10.5%上昇した。美団点評の王興最高経営責任者は、1月末から2月下旬にかけて「食品配達量が劇的に減少した」と語ったが、それでもアナリストの予想を上回る業績となった。今後、業績の回復が見込まれている。
3. Jio PlatformsがIPO検討報道
企業価値約7兆円のインドのJio Platformsが海外IPOを検討している、と関係者。IPOは今後12〜24カ月以内で行われる可能性があり、上場場所は未定とのこと。これに先立ち、Jio Platformsは22日に15億ドルをプライベート・エクイティのKKRから調達したと発表した。同社は他にFacebook、シルバーレイクから調達を行い、1月で$100億を集めた計算。Jio Platformsは通信会社Reliance Jioとデジタルプラットフォーム事業を合算したビジネス展開を目論んでいる。
4. 米失業者、給付金が以前の賃金を超える事態に
【労働やめるか?】ゴールドマン・サックスのアナリストによると、米国の解雇された労働者の4分の3は、元の賃金を超える給付金を受け取れる可能性がある。もともとの所得が低かったことも問題だが、新しい福祉政策の実験になっている。
5. スーパーシティ法が成立
人工知能(AI)などの技術を活用した先端都市「スーパーシティ」の構想実現に向けた改正国家戦略特区法が5月27日、参院本会議で可決、成立した(共同通信)。全国で5カ所程度の地域を特区に指定する方針で、秋までに募集を開始し、年内の決定を目指す。複数の分野にまたがる規制を一括して緩和することで、自動車の自動運転やドローン配送、キャッシュレス決済、オンライン診療などのサービスを同時に利用できる暮らしの実現を目指す。
6. HBO Maxがローンチ
HBOのストリーミングサービス「HBO Max」が5月28日、ローンチした。HBOの非常に優れたライブラリに加えて、マックスには「フレンズ」や「ハリー・ポッター」のフランチャイズのように、親会社のワーナーメディアが制作・ライセンスしたコンテンツが山のように追加されている。
7. ビジョンファンド10%人員削減
ソフトバンクGはビジョンファンドのスタッフの約10%を削減すると関係者。現在約500人を雇用しており、その大部分はロンドン本社を拠点とし、サンフランシスコと東京にもオフィスを構えている。