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エクソンモービルは2020年第四半期に170億〜200億ドルの減損を計上し、2022年〜25年の間に設備投資を現在の3分の1まで削減すると発表した。12月14日には、生産されるエネルギーの1単位あたりの二酸化炭素排出量を5年以内に20%削減することを約束した。エクソンの経営陣は長い間、排出削減目標を「美人コンテスト」と鼻で笑ってきたが、最終的には「2030年までに事業全体で業界をリードする温室効果ガス排出量を達成する」という目標を掲げざるを得なかった。
この変更は、石油大手のビジネスモデルの広範な見直しを期待する投資家の懸念に応えるほどのものではなかった。50年以上前にマサチューセッツ工科大学(MIT)の科学者と学生によって設立された全国的な非営利団体「憂慮する科学者同盟」(Union of Concerned Scientists)は、対策は非常に不十分であり、気候変動の最悪の影響を食い止めるために、温暖化を摂氏2度以下、可能な限り摂氏1.5度に近づけるために必要であると科学が考えるものに沿っていない、と非難する声明を発表している。
今回の2025年目標の設定に少なからず影響したのは、2020年5月、ブラックロックがエクソンの気候リスクに対する同社のアプローチを巡って2人の取締役の再選に反対票を投じ、現経営陣とは異なる「独立系」の会長の選出に賛成票を投じたことだ。
ブラックロックの創設者兼最高経営責任者であるローレンス・フィンクは、2020年の年頭書簡のなかで、環境の持続可能性を中心とした投資判断を行うと表明した。化石燃料を中心とした銘柄を避けた新しいファンドを導入し、持続可能性について進展していない経営陣への投票をより積極的に行い、「地球温暖化を2度以下に抑えるというパリ協定の目標が完全に実現されるシナリオの下での運用計画」を企業に開示するよう要求する、とフィンクは書簡の中で書いた。その後、ブラックロックは温室効果ガスの排出抑制を求める投資家グループ「Climate Action 100+」に参加している。
ブラックロックは7月14日に発表した持続可能性に関する報告書の中で、「気候変動リスクをビジネスモデルや開示に組み込むことが十分に進んでいない企業」244社のうち、特に状態の悪い53社については、株主の提案を支持したり、取締役会メンバーに反対票を投じたり、ガバナンスに関する懸念を提起したりするなど、経営陣に対していくつかの重要な措置を講じたことを明らかにしている。報告書によると、2020年の間にブラックロックが議決権行使を行った企業は、さまざまな業種の企業が含まれているが、その中でもエネルギー関連企業が37社を占めている(エクソンもそのうちの1社だ)。また、公益事業会社7社、工業会社4社、素材会社4社、金融会社1社の提案にも反対票を投じた。
業を煮やしているのは、ブラックロックだけではない。第二位の公的年金基金であるカリフォルニア州教師退職制度(Calstrs)は、エクソンの役員の半数近くを交代させる運動を支持している。Calstrsは、12月7日にエクソンに対して表明した声明で役員交代のために議決権を行使すると述べている。同じく12月、ヘッジファンドのD.E. Shawは配当を守るために資本規律を要求する書簡をエクソンモービルに送付した。
12月25日付のニュースレターで紹介したとおり、超富裕層や機関投資家の気候変動への「配慮」は、衝動的なものではなく、長期に渡るコンセンサスとなっている。彼らの間で、金銭的リターンと並行して社会的または環境的な影響をもたらす「Impact investing」は常識となった。ロビンフッダーと呼ばれる個人投資家の台頭はその流行に輪をかけている。テスラ株の異常な高騰が示すように、2020年の株式市場はその方向に完全にかじを切った。
年金基金の変貌
ニューヨーク州退職年金基金は12月、今後5年間に化石燃料株の多くを売却し、2040年までに地球温暖化に貢献する他の企業の株式を売却すると発表した。2260億ドルの資産を運用する基金は、他の年金基金への影響力を持っており、化石燃料からの売却を決定したことで、世界市場における石油・ガス会社からの距離を縮めようとする動きが加速する可能性がある。
今回の発表は、同ファンドが22社の石炭会社の株式を売却した数ヶ月後に行われた。ニューヨーク市、サンフランシスコ、ワシントン、そしていくつかの小規模都市も化石燃料からの撤退プログラムを採用しているが、ニューヨーク州のファンドの決断は、英国、アイルランド、スウェーデンの年金基金が株式売却計画を採用するなど、世界的に拡大している動きの中で先鞭をつける役割を果たした。国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、政府や財団、大学にも追随を促している。
トーマス・ディナポリ州会計監査官は、年金基金に依存している110万人の州・市職員の納税者が保証する退職金を守ることが第一の関心事だと述べ、長い間、売却に抵抗してきた。しかし、ディナポリは、新しいプランを採用した主な理由は、年金基金を保護し、化石燃料から離れつつある世界で長期的な経済的成功を遂げる義務があるからだと述べた。
気候変動をもたらす企業からの投資撤退を促す「ディベストメント運動」を追跡・推進しているグループ、DivestInvestによると、1,246の金融機関と約6万人の個人が化石燃料への投資を中止することを約束しているという。
投下資本利益率の継続的な低下
21世紀に入ってから、石油セクターの事業環境は難しさを増した。石油メジャーのリターンはここ数年、平凡なものであった。ボストン・コンサルティング・グループの報告によると、前回の原油価格暴落が発生した2014年から2019年の間に、上場している5大メジャー(エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、シェブロン、BP、トタル)は、約6,150億ドル(投下資本の約85%)を上流事業に費やした。しかし、巨額の費用にもかかわらず、これらの事業から得られるROCE(投下資本利益率)は10年以上にわたって確実に低下した。
報告によると、2006年と2019年の平均ブレント原油価格は1バレルあたり65ドル前後で推移。2006年には、上流のROCEの中央値は27%を超えていたが、2019年にはわずか3.5%にとどまっている。
激減の理由の一つは、ポートフォリオ構成の変化である。1970年代以降、資源保有国の国営石油会社は、安価で入手しやすく、リターンの高い原油へのアクセスを着実に減少させてきた。2006年までには、メジャーの生産ポートフォリオの80%以上が従来型資産(生産性の高い貯留層(水を蓄えた岩層)を持ち、契約条件の整った陸上および浅海の資産)で構成されており、商品価格サイクルにかかわらず、多かれ少なかれ、実績のある魅力的なリターンを提供していた。今日では、魅力的な従来型資産はメジャーのポートフォリオの半分以下まで減り、企業の生産量や埋蔵量に対する貢献度が低下しているため、その多くは売却の対象となっている。
メジャー各社は、生産量と収益を拡大するために、2005年から2014年までの間に累計1兆ドル以上の設備投資を行い、グローバルな深海掘削、米国の非在来型石油・ガス開発、オイルサンド、液化天然ガスなどの新しい分野で、よりコストが高く、技術的に困難な(多くの場合は炭素が高い)資産の割合を増やすようにポートフォリオを再構成した。これらの分野での石油・ガス生産の課題は、企業の資本集約度を大幅に高め、上流のリターンをさらに圧迫している。2006年から2019年の間に、メジャーの石油換算1バレルあたりの平均使用資本は47ドルから111ドルへと2倍以上に増加した。また、これらのリターンは、原油価格の下落によって食い尽くされやすくなった。
この結果、株式市場でのパフォーマンスは目を覆いたくなるものとなった。2014年、2015年、2018年、2019年において、エネルギーはアメリカの大企業のS&P500指数の中で最悪のパフォーマンスを示すセクターだった。2020年の1年間だけで大手5社は株式市場で3500億ドルの価値を失った。彼らは雇用を最大15%削減し、設備投資を削減するとしている。シェルは第二次世界大戦後初めての減配を行い(その後増配した)、BPはロンドンのメイフェアにある豪華な本社を売却すると発表した。8月には、エクソンは、ほぼ100年ぶりにダウ工業株価指数から除外された。
投資家を繋ぎ止めているのは、長期に渡り安定している配当金だ。配当金を払う能力が石油メジャーのバリュエーションの変動の大半を説明していると考えられている。減配が始まときには、機関投資家たちは圧力をかけるのを止め、再生可能エネルギー企業の株式に飛び移っているだろう。
*参考文献はリンクで示した
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