シェアリングエコノミーの終焉

ギグワーカーの従業員化が事業の持続可能性をこわした

雇われCEOはつらいよ。ニューヨーク・タイムズ紙にギグワーカーのための福祉基金を創設すると寄稿した翌々日、サンフランシスコ地裁がギグワーカーの運転手を従業員化する裁定を下すと、カルフォルニアの事業を一時停止すると、州を脅かしたUberの最高経営責任者ダラ・コスロシャヒ。 Credit: "Conférence de Dara Khosrowshahi, CEO d’UBER à l'Ecole polytechnique en date du 24052018" by Ecole polytechnique / Paris / France is licensed under CC BY-SA 2.0

要点

UberやLyftの仕組みは非常に革新的だったが、ときには最賃以下の給与で働くギグワーカーに依存するビジネスモデルは、当局が規制を狭めてきた場合、持続不可能になることがわかった。それでも、彼らの仕組みは興味深く、人やモノのモビリティを解くのは難しいが、将来、他の分野で役に立つ可能性がある。

加州は従業員分類を要求

UberとLyftは、ギグワーカーの労働者の分類に影響を与えるカルフォルニア州の新法を巡って、激しい法廷闘争に直面しているが、両者は、新法が適用された場合、操業を停止すると州を脅している。

現状、裁判所はUberやLyftによる新法の施行を遅らせるための申請を却下したため、両者は8月20日までにギグワーカーを従業員として雇用しないといけない。従業員化した場合、両者の事業の持続可能性は薄く、カルフォルニアという全米最大の市場で一時的な操業停止の可能性が高まっている。

UberとLyftは、1月に施行されたAB5を回避するために、カリフォルニア州の住民投票による立法手続きに最後の望みを託している。今年の初め、両社は食品配達スタートアップのDoorDashとともに、11月の大統領選挙の投票とともに行われる住民投票を通じた立法手続きを成立させるため1億ドル近くの資金を集めた。

彼らは最終的に手続きの成立に成功し、有権者は大統領選の投票時にドライバーを「独立請負業者」に分類することを規定するプロポジション22という法案の是非を問われることになるが、有権者がこの立法に賛成するかは不透明だ。

非従業員化による「費用の外部化」

ドライバーを独立した請負業者として分類することで、UberやLyftは長い間、ドライバーへの従業員給与税の支払いを回避してきた。これは、ギグワーカーへの給付金を配布を規定したCARES法の下で、納税者が多くのギグワーカーを事実上補助していることを意味し、またUberやLyftが納税者から間接的な補助を受けたことも意味する。

さらに、州予算は重要な収入源を失うことになる。たとえば、ニュージャージー州は、Uberがドライバーを誤って分類したことで脱税し、6億5000万ドルの罰金が発生したと主張している。

カルフォルニア大学バークリー校のケン・ジェイコブス教授とマイケル・ライヒ教授らの研究によると、カリフォルニア州は、配車企業からの失業保険税への4億1300万ドルの納税を見逃している可能性がある。

カリフォルニア州では、新規雇用者の税率は給与の3.4%で、従業員一人当たり年間7,000ドルまでが課税対象となる。しかし、10年以上前の創業以来、UberとLyftは、カリフォルニア州の失業保険(UI)基金への支払いを行っていない。両社は、運転手は従業員ではなく独立した契約者であるとしている。

これは、本来費やさないといけない費用の外部化であり、政府や地方自治体が提供する社会インフラへのフリーライドに当たるものだ。

実態は低賃金の「独立請負業者」に依存

当初、UberとLyftは、流行語である「シェアリングエコノミー」の一部である「ライドシェアリング」企業として位置づけられていた。Uberはオンデマンドで贅沢なサービスを提供し、Lyftはタクシーに代わる楽しく環境に優しいサービスだと主張していた。

しかし、実際は、本来従業員とされるべき人を、「独立請負業者」として安く雇用することでビジネスを成立させる「ギグエコノミー企業」だった。

カルフォルニア大学バークリー校のジェームズ・パロット教授とマイケル・ライヒ教授(ともに経済学)は、シアトルにおける配車ドライバーの賃金を、シアトル市の依頼を受けて調査した。

調査は、2020年7月に公開された報告書によると、現在のドライバーの時給は約21.53ドル。11.80ドルの経費を差し引くと、時給は9.73ドルで、最低賃金を大きく下回っていることを明らかにした。ギグドライバーが自己負担する費用には、減価償却費、リース料、保守・修理費、タイヤ、ガソリン、オイル、保険、免許・車両登録料などの項目を含まれている。

配車企業は、人々が空き時間を使ってお金を稼げる「ギグ」という印象操作を図ってきたが、パロットらの調査では、配車の大半は、専業で働く「事実上の従業員」によってもたらされており、自動車に設備投資をしているため、彼らは最賃以下の待遇から現状を変えることがかなわない。また、多くのドライバーは新しい移民であり、他の仕事に就くことが困難である。UberとLyftは、このような人たちを「独立請負業者」と定義づけることで採算を合わせている。

UberとLyftはパロットらの市が依頼した調査に対抗して、コーネル大学のInstitute for Workplace Studeiesに調査を依頼した。その調査は「ドライバーの報酬は市の平均に相当する」と主張している。

ビジネスが悪くとも資本主義をごまかすことは可能

UberとLyftは創業から10年経った今でも、どちらの会社も利益を上げることができていない。観測される限り、黒字化している配車企業は1社もない。

Lyftは、労働者を従業員として分類しなければならないのであれば、営業する余裕がないと明らかにしていた。もしこれが本当ならば、配車のビジネスモデルは持続可能性がないものだった、ということだ。

UberとLyftの初期投資家は、IPOをしたときに億万長者や億万長者になり、創業者や役員は大金持ちになり、彼らの地位にはオバマ政権の上層部の権力者が並んでいる。一方、ドライバーの収入は、維持費やガソリン代を考慮しても時給10ドルに満たないことが多く、多くの人が生活費を賄うのに苦労している。

もしかしたら、配車企業のステークホルダーは、これらの事業が長期的に収益性を確保することはないことに気がついていた。ただ、彼らの戦略は、多分な冒険主義と楽観主義を頼りにしながら、資本のパンプによる売り抜けを採用した。これが生み出したのが、「ビッグテックの足元を揺るがすニューカマー」としての自己演出であり、シェアリングエコノミーやギグ・エコノミーのようなバズワードの形成とその入念な広報活動だった。

ジャーナリストのサム・ハーネットは、最近のワーキングペーパーの中で、2010年代に主流のテック系メディアがUberやLyftの現象化を後押しし、「シェアリングエコノミー」を非常に肯定的なものとして宣伝していたことを分析している。ここからは、テクノロジー企業関連の報道が、様々な広報テクニックに対して、あまりにも脆弱であることがわかる。ニュース消費者が実態を掴むことはかなり難しい。

ハーネットは「評論家やジャーナリストは、これらの企業が必然的な未来を切り開いただけでなく、望ましい未来を切り開いたかのように見せかけた。彼らのコンテンツは、これらの企業が既存の企業とは異なるものであること、つまり、消費者と独立した権限を与えられたギグ・ワーカーを効率的に結びつけることで、既存の企業を混乱させるように設計された革新的なテクノロジー・プラットフォームを持つ新興企業であることを、国民や規制当局に納得させるのに役立った」と指摘している。

欠陥を抱えた両面市場

もうひとつのギグエコノミーの牙城である食品配達でも異変が起きている。Uberのような配車は、乗客とドライバーの二者間のマッチングだが、UberEatsは三者間のマッチングであり、難易度が更に上がる。

客、レストラン、配送員のいずれかが不足すると、マッチング市場の効果を担保する「市場の厚み」がなくなってしまうからだ。

このため、常に「補助金」を使わざるをえない。それは、ドライバーへの収入補填、レストランへの手数料減額、マーケティングのための顧客獲得費用の3つに分類できる。

Uberの4-6月期の決算では、需要が最高潮に増え、ギグワーカーが増えたロックダウン期間でさえも、UberEatsは黒字化しなかったことがわかった。細目はわからないものの、赤字幅も縮んでいない。

これらの状況から2つの疑問が湧き上がる。それらは「この事業に損益分岐点はあるのだろうか」と「規模の経済は効くのだろうか」の2つである。

中国の美団点評は、アリババの食品配送部門であるEle.meとの巨額赤字を連発していた時期がある。2018年第3四半期の830億人民元(120億ドル)の損失だ。美団は、Ele.meとの補助金戦争が緩和し、3級以下の地方都市でのビジネスを確立させると、食品配達での赤字幅を縮小し、オンライン旅行代理店やチケット代理店などの他のビジネスで大きなマージンが得られることが確定し黒字に転換した。しかし、2020年1-3月期には、コロナ禍のなか旅行産業が大打撃を受け、再び赤字に転落している。

ここで重要なのは、食品配達単体では、黒字化しなかった事実である。美団は、食品配達を事業の一部とする企業の中では、珍しく黒字化を達成した企業だった。

もしかしたら、食品配達ビジネスの「上がり」は、自律走行車の導入にあるかもしれない。ただ、Uberの経営陣はテクノロジーにはあまり興味がない。CEOは、開発部門をインドに移転する案を指示しており、その過程で、同社の優れたエンジニアリングの構築に貢献してきたベテランCTOが退社している。

テスト運転するUberの自律走行車。自律走行車が安全に導入できて初めて、Uberは事業としての継続性を確保できるかもしれない。 Photo by Uber.

Uberの仕組みで他の問題を解く

現状、ヒトとモノのモビリティは、Uberの仕組みで解くべき問題ではなかったのかもしれない。現在の状況のなかでは、ビジネスとしては持続可能性が薄い。それでも、Uberが実現したことは価値が高い。

Uberは、センサーで得られる情報から、データサイエンスがもたらす洞察、天候、需要予測までさまざまな要素を勘案して価格を形成できることを示した。いわゆるサージプライシング(ダイナミックプライシング)を導入した。

また、わざと乗客を待たせることで、市場の厚みを形成し、乗客とドライバーのマッチングをより効果的に行うことで、混雑緩和を実現できる可能性を示した。

機械学習基盤Michelangeloは、Uberのすべてのトランザクションデータとログデータを保存するデータレイクであり、データのクリーニング、加工、分析を容易にしている。

Uber Eatsの配車システムは、貪欲な(Greedy)マッチングアルゴリズムでスタートしたが、時間予測を利用した包括的な(Global)マッチングアルゴリズムを使用することで、より効率的な配車が可能になった。Michelangeloはこのシステムの構築を容易にした。

配車ブームの間、Uberが世界中に展開したが、その高速の開発を、エンジニアリングチームが構築したプライベートAPIsが支えていた。同社の内部システムは、クラウドを基点とし、高速のテスト、デプロイのサイクルを回すを事を助けている。

このような重大な変化をもたらした人は、数々のスキャンダルや、上場後の右往左往の中で、同社を離れてしまった。それでも、次のプレイヤーがUberが生み出したイノベーションを前に進めるだろう。Uberは、仕組みはいいが、ビジネスモデルが悪かった、ということだろう。

Share