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要点
Alphabetのトロントは頓挫したものの、豪グレーター・スプリングフィールド、トヨタのウーブンシティ等の楽しみなスマートシティプロジェクト世界中で進展し、アリババのシティブレインのような支援サービスも生まれている。
オーストラリアのクイーンズランド州ブリスベン都市圏の南西部に「次のシリコンバレー」を伺う都市がある。610万ドルで購入された7,000エーカーの土地に開発された計画都市「グレーター・スプリングフィールド」は、世界で10番目に大きなマスタープラン・コミュニティであり、民間企業Springfield City Group(SCG)が政府の認可を受けて開発を主導している。
現在、4万6,000人の住民、1万6,500戸の住宅、11校の学校、国立大学のキャンパス、病院、そして隣のブリスベンとを結ぶ鉄道が建設されている。民間と州が150億ドルの資金を投入して建設したこの都市は、これまでのところ25%が完成しているという。
しかし、アジア太平洋地域における真のイノベーションハブとなり、2030年までに人口を3倍に増やし、5万2,000人の雇用を創出するという目標を達成するためには、さらに多くのビジネスが必要です。SCGによると、現在までに2万人の雇用が直接・間接的に創出されている。
仏電力会社であるEngie SAは、グレーター・スプリングフィールドをオーストラリア初のネット・ゼロ・エネルギー都市にすると励んでる。具体的には、電気自動車のインフラ整備、公共交通機関の優先利用、環境に配慮した建物の建設、すべての屋根へのソーラーパネルの設置、地域の土地の30%を緑地として確保することが計画されている。
今月初めには、シドニーの新興企業であるLavoが、1回の充電で2日分の電力を供給できる「世界初」の30年使用可能な水素電池の製造拠点として、グレーター・スプリングフィールドを選んだ。
スマートシティ
このような未来に実現される技術を見越して、ゼロから都市を建設する試みが、世界中で行われている。Alphabetが関与したトロントのウォーターフロント開発は、非常に興味深い先行例となるはずだったが、地元政治の荒波に飲まれ、消えた。
しかし、世界中のプレイヤーが都市の再構築という試みで前進を続けている。トヨタが開発をすすめる静岡県裾野市のウーブン・シティはその一例だ。今年2月に地鎮祭が行われた同都市はインターネット・オブ・シングス(IoT)とモビリティの可能性を追究するためのものと定義づけられている。
トヨタ本体が様々な事業体を通じて自律走行ソフトウェア企業に出資・提携する中、ウーブン・シティの事業体ウーブン・プラネットは、4月、米配車サービスのLyftの自動運転部門であるLevel 5を約5.5億米ドルで買収すると発表した。この結果、ウーブン・プラネット、Toyota Research Institute (TRI)、Level 5の世界トップクラスの研究者とソフトウェアエンジニア約1,200人から成るチームが完成した。ウーブン・シティは彼らの研究開発の実証実験先となる予定だ。
トヨタは5月にはENEOSと同都市における水素エネルギー利活用での協力で基本合意したと発表した。声明によると、水素ステーションの建設・運営、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)の製造と供給、需要管理システムの構築、市内での先端研究を行う予定だ。
これに先んじていたのが、2016年にスマートシティを国家戦略に組み込んでいた中国だ。アリババのスマートシティプログラムである「シティ・ブレイン」は、杭州、上海、重慶、蘇州、海口、北京、成都、衢州、嘉興、クアラルンプール、マカオなど、多くの都市で導入されている。
シティ・ブレインとは、人間の脳では解決できない都市の統治や開発の問題を、人工知能を活用して解決する、巨大データを基盤とした新しいインフラである。これは、都市空間の多様なソースから生成されるビッグデータや異質なデータを、映像・画像認識、データマイニング、機械学習技術によって取得・統合・分析するための包括的なプログラムだ。これにより、市議会や都市計画担当者は、コミュニティのためにより良い判断を下すことができるようになる。
2016年4月、シティ・ブレインという概念が正式に公表された。翌年の2017年11月、Alibaba Cloud ET City Brainは、科学技術省による最初の4つの人工知能インノベーションプラットフォームの1つに選ばれた。2018年1月、マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)とクアラルンプール市庁舎(DBKL)は、Alibaba Cloud ET City Brainの導入を共同で発表した。この人工知能は、マレーシアの交通管理、都市計画、環境保護に全面的に適用される計画だ。
社会思想やコミュニティの性質の影響
スマートシティは、機械学習、IoT、クラウドコンピューティング等の先端技術を利用して構築されるが、その都市計画者やサービス提供者が属するコミュニティの性質によって、その設計が大きく異なることになる。
グレーター・スプリングフィールドは民間企業に都市計画の遂行を認可した米国的なプライベートシティ(Private City、民間都市開発事業)である。シリコンバレーがヒッピー文化やリバタリアン的政治思想とコンピュータ科学が混ざり合う場所だったことを踏まえて、英国から独立似たような政治的文脈を持つ豪州で、南半球のシリコンバレーを作ろうとしている。
ウーブン・シティは非常に実用的なものだ。トヨタが次のモビリティと再エネの時代への適応を求める文脈を踏まえて、これらの研究開発を試すための実証実験環境である。自動車が電動化し、ソフトウェア制御される側面を際立たせるにつけ、ハードウェア屋のトヨタがソフトウェア屋の知見を蓄える要請を叶える目的が伺える。
これに対して、シティ・ブレインは中国の中央政府や地方行政府が、市民の行動を把握し、治安の安定や交通の適正化を最先端技術で実行する目的が明確である。これは中国の権威主義体制や大規模な人口を踏まえたものだ。現在、中国当局はアリババへの圧力を強めているが、これが地方行政府をその買い手とするシティ・ブレインにどのような影響をもたらすか、中止する必要があるだろう。
参考文献
Jianfeng Zhang et al. City brain: practice of large-scale artificial intelligence in the real world. IET Smart CitiesVolume 1, Issue 1 p. 28-37. 24 June 2019. https://doi.org/10.1049/iet-smc.2019.0034
Muhammed Can, Halid Kaplan, Large Technical Systems, Examining the Socio-Technical Impact of Smart Cities, 10.4018/978-1-7998-5326-8.ch004, (91-106), (2021).
※他の参考文献リンクで示した。
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