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要点
ゲーミング産業の重要な一角を占めるようになったDiscordは、ソニーからの少数投資を受けた。100億ドル超の買収金額を提示していたとされるマイクロソフトは競り負けた。TikTok, Pinntarestの買収も不成立だったマイクロソフトは、Xbox以外の消費者向け製品への尽きることのない情熱を示している。
ソニーとDiscordは、ゲームに特化した人気のチャットアプリと、プレイステーションに内蔵されているソーシャルツールを統合するパートナーシップを発表した。ソニーは、噂されていたIPOに先駆けて非公開の少数株主持分を取得した。ソニーがDiscordを自社のPlayStation製品に統合するためにどのように取り組んでいるかについての詳細な情報は、今後明らかにされるはずだ。
ソニーの提携は他のライバルを押しのけてのものだ。Discordがマイクロソフトなどへの120億ドル規模の売却交渉を終了したとThe Wall Street Journalが報じていた。他にもTwitterやAmazon、EpicGamesなどから投資や買収の関心が寄せられており、Discordの評価額は150億ドルから180億ドルにも上るとBloombergは報じている。しかし、Discordは、このような大物の選択肢があったとしても、独立を維持し、成功を築くために株式上場の可能性を検討することを決めたという。SJによると、Discordの月間ユーザー数は約1億4,000万人で、2020年には約1億3,000万ドルの収益を上げているが、まだ利益は出ていない。
Discordは、主にゲーマーに利用されているが、特にパンデミックの際には、Z世代(1996年から2012年に生まれた世代)の友人との交流の拠点となっている。Discordは主にプライベートコミュニティで構成されており、そのうち75%は北米以外のDiscordユーザーであるという巨大なコミュニティだ。
若年層は友人と連絡を取るためにDiscordを毎日使ったり、遠隔地での映画鑑賞会に参加したり、ゲームをストリーミングしたり、ただ単に遊ぶための場所としてアプリを利用してきた。何百万人ものゲーマーがFortniteで一緒に遊んでいるが、Discordはこのような友達のコミュニティがゲーム中に会話やチャットをするための主要な手段となっている。
Discordは、Slackのメッセージング機能とZoomのビデオ機能を組み合わせたようなもので、音声通話に自由に参加できるユニークな機能を備えている。わざわざ時間を決めて友達に電話したり、リンクを送ったりする必要はなく、いつでも開いている音声チャンネルにみんなで飛び込んだり、出たりすることができる。
米国のZ世代はミレニアル世代(1981年以降に生まれ、2000年以降に成人を迎えた世代)とは異なり、FacebookやTwitterのような典型的なソーシャルメディアを好まない。Fortniteのようなゲームをたまり場としてアバターで交流したり、プライベートなコミュニケーション方法を好んだりする傾向があるクラスターが存在する。ゲーマーやアーティストがYoutubeやTwitch等で獲得したファンをDiscordのプライベートグループに招待するのは近年、非常に一般化したクリエイターの戦略となっている。Discordは米国の若年層がとるインターネット行動を典型的に示す、コミュニケーションツールと言えるだろう。
TikTokとPinterestの買収不成立
最近、TikTokとPinterestの買収に失敗したマイクロソフトにとっては、Discordは最新の買収ターゲットとなった。マイクロソフトがこれらのサービスに大金を投じるのは、Xbox以外では、ライバルのGoogle、Amazon、Facebook、Appleのような巨大な消費者向けコミュニティを持っていないことが関係している。マイクロソフトは、GoogleがYouTubeを買収して世界最大の動画プラットフォームにしたり、AmazonがTwitchを買収してゲームストリーミングを支配したり、FacebookがInstagramとWhatsAppを買収して何百万人もの人々がオンラインでコミュニケーションや交流をする方法を支配したり、AppleがApp Storeでモバイルを支配したりするのを見てきた。
マイクロソフトにとって、Discordはその場としての重要性だけでなく、数千人のトップYouTuber、クリエイター、ゲーマーを含む、1億4,000万人以上の月間アクティブユーザーのリストにアクセスすることができる手段に見えるはずだ。
サティア・ナデラは、マイクロソフトのCEOに就任して最初に買収した大企業のひとつが、何百万人もの熱狂的なファンをもつマインクラフトの開発スタジオであるスウェーデンのMojangだった。ナデラは他のコミュニティの買収にも大金を投じており、LinkedInには262億ドル、GitHubには75億ドルを投じている。GitHubは、開発者の愛と巨大なコミュニティを購入するための重要なターゲットであり、LinkedInは、マイクロソフトと企業をより深く結びつけ、重要なプロフェッショナルのソーシャルグラフへのアクセスを提供した。
また、マイクロソフトが長期に渡りゲーミング業界における版図を広げる方針を持ってきたことも、買収に深く関わっているだろう。ナデラがCEOに就任してから数年後、マイクロソフトはゲームストリーミングのBeamを買収し、最終的にMixerというストリーミングサービスにブランドを変更した。マイクロソフトはTwitchに対抗しようとしたが、消費者への幅広いリーチがなかったため、最終的に失敗した。その代わりに、昨年Mixerを閉鎖し、ストリーマーがFacebook Gamingに移行するのを支援した。
マイクロソフトはゲームスタジオを相次いで買収している。昨年9月には、Falloutなどで知られる老舗スタジオZeniMaxの買収を発表し、これが23社目の傘下のゲームスタジオになった。ソニーの13社を大きく上回る。
同時にAzure上に大規模サービスを招き入れられることも目標の一つだろう。これは、マイクロソフトがライバルのAmazon Web Services(AWS)の後塵を拝してきた分野であり、DiscordがGoogle Cloudを利用していることを考えると、新規のクラウド利用者を獲得する目論見も想定できる。
マイクロソフトは、最近ではマインクラフトをAWSからAzureに移行させており、数年前にはOutlook for iOS(Acompli買収の一環)をAWSから素早く移行させている。Discord、TikTok、Pinterestのような大規模なプラットフォームをAzure上で稼働させることで、マイクロソフトの巨大な営業部隊は、より多くの企業に移行を勧めることができるはずだった。
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