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テスラ、電力系統向け蓄電事業を本格化

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テスラ、電力系統向け蓄電事業を本格化

再エネ統合型のエネ貯蔵システムに商機

吉田拓史 Yoshi
Mar 11, 2021
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テスラ、電力系統向け蓄電事業を本格化

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テスラの「メガパック」電池。Image via Tesla

毎週金曜日発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、その週に顕在化した最新のトレンドを調べて解説するニュースレターです。同様の趣旨のポッドキャストもあります。ぜひご登録ください。

要点

寒波の影響で、電力が一時停止したテキサス州で、テスラが関わる蓄電システムの建設が進んでいる。蓄電がもたらす柔軟性が、電力系統がより再生可能エネルギーの採用を促す可能性があり、世界中のプレイヤーが殺到している。

テスラ、子会社経由でステルス事業

ブルームバーグの報道によると、テスラは現在、テキサス州で電力系統用蓄電池の設置を行っているという。プロジェクトは、ヒューストンから南に約1時間のアングルトン市に位置している。

報道によると、テスラはこのプロジェクトを公表しておらず、Gambit Energy Storage LLCという無名の子会社の名前で運営されている。ブルームバーグのカメラマンが訪問した際には、従業員が写真撮影を禁止し、プロジェクトは「秘密」と伝えた。このプロジェクトは、白いシートで覆われた20個の大きなバッテリーバンクで構成されているように見える。

アングルトン市のウェブサイトにある資料には、プロジェクトの詳細が記載されている。プラスパワー(Plus Power)社のプロジェクトと記載されているが、テスラのバッテリーキャビネットの写真が含まれている。プラスパワー社は、その幹部に2人の元テスラ社員を含んでいる。プラスパワー社はブルームバーグに、このプロジェクトを開始した後、非公開の関係者に事業を売却したことを認めている。

この設備にはリン酸鉄リチウム電池が使用され、10年から20年の耐久性が期待されている。アングルトン市に約100万ドルの固定資産税収をもたらす見込み。設置場所は無人だが、常に遠隔監視される。

テキサス州には、テキサス州電気信頼性評議会(ERCOT)が監督する独自の電力系統がある。「アングルトンはERCOTエネルギーグリッドの中でも特に変動の激しい『節(ノード)』を形成しており、システムはバッテリーが提供するエネルギーバランスから恩恵を受けることになる」と資料に書かれている。

2月、テキサス州の電力系統は、異常な寒波の影響で停電し、州内の多くの地域が数日間にわたって電気供給を得られなかったことで注目を集めた。ERCOTの会長と副会長はこの混乱の責任のため辞任している。

テキサス州ヒューストン市の衛星写真。機器発生以前の7日に比べ、発生以降の16日には市の一部の明かりが虫食い的に消えている。Image via Wikimedia Commons.

ERCOTの関係者がBloombergに語ったところによると、この極秘設置には6月1日の商業運転日が提案されており、完成に近づいている可能性があるという。

世界で採用が進むバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)

このような電気系統内に設置される蓄電施設のことを、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)と呼ぶ。BESSは電力系統の運用を改善する大きな機会を提供する。多くの電力系統では、システム運用の改善や従来の発電の柔軟性など、変動する再生可能エネルギーの統合をサポートすることができる。

これによってもたらされるシステムの柔軟性は、再生可能エネルギーの割合が増えるに従い重要な強みとなる。さらに直接的な効果としては、蓄電の発展は電気車両(EV)主体の運輸を実現し、24時間稼働の電力系統に頼らない効率的な住宅用太陽光発電システムを可能にするとともに、 100%再生可能エネルギーの分散型ミニ電力網を可能にする。

現在世界最大のBESSは、電気小売・発電会社Vistraが運営するカリフォルニア州モントレー郡のモスランディング蓄電施設だ。この施設のフェーズ1は、Vistra社が2018年に同施設の前所有者であるDynegy社を買収して以来所有していた天然ガス発電所であるモスランディング発電所の敷地内で、2020年12月11日に電力網に接続され、運転を開始した。さらに、フェーズ2では100MW/400MWhが追加され、今年の8月までに完成する予定だ。

このシステムは、太陽光発電量が最も多い日中にバッテリーを充電し、夕方の太陽光発電量が減少したときに電力をグリッドに戻す。このVistra社は、カリフォルニア州の民間所有電力会社(IOU)であるPG&Eとの間で、フェーズ1およびフェーズ2の出力を、IOUの顧客への安定した十分な電力供給を維持するための契約を結んでいる。

最近では、豪州を拠点とする再生可能エネルギー専門ファンドであるCEP. Energy社は2月初旬、世界最大の定格出力1,200MWのグリッドスケール電池プロジェクトを発表した。このプロジェクトは、豪東海岸シドニーから北へ約150kmに位置するニューサウスウェールズ州のハンターバレー地域に設置される予定だ。

CEP.Energy社のプロジェクトは、現在世界最大のBESSであるモスランディング蓄電施設より、定格出力では「最大」4 倍大きい。

CEP.Energy社は、豪州各地の異なる場所で合計2,000MWに達する4つの蓄電プラントを建設する計画で、地元の不動産開発グループHunter Investment CorporationとKurri Kurriのプロジェクトに30年間のリース契約を締結している。

中国の電池大手CATLもまた、電気系統内の蓄電システムに挑んでいる。CATLは2019年1月、中国で初めて風力発電(400MW)、太陽光発電(200MW)、集光型太陽光発電(50MW)、エネルギー貯蔵システム(ESS)(100MWh)を電力網上にある1つの統合システムとして世界初、かつ中国最大のBESSを納入した。

プロジェクトは、青海省ゴルムド市(海西モンゴル族チベット族自治州内)の活断層に位置し、周囲温度は-33.6℃~35.5℃の過酷な気候や地震の影響を考慮した設計になっている。

中国電力研究所の主任研究員であるフイ・ドン博士によると、この発電所は「仮想同期発電機を備えた世界初かつ中国最大の電気機械エネルギー貯蔵所」である。発電所を重要な部分とし、年間発電量12万6250MWh(40万1500トンの石炭発電エネルギーに相当)を見込むプロジェクトは、様々な新エネルギー利用の好例であると指摘されている。

再生可能エネルギーには高機能な電池が必要

このように大規模な蓄電池を、再エネ発電所や基幹系統につなげば、電力が余った時には蓄電し、電力が不足した時には放電することで、系統電力の安定化を図る試みは世界中で行われている。

ただし、蓄電池を再エネ発電所や基幹系統につなげば、課題がすべてが解決するわけではない。例えば、洋上風力の場合、現存するリチウムイオン電池では、それを黒字化するのが難しいとする研究が存在する。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のMITエネルギー・イニシアティブ(MITEI)の研究者Apurba Saktiらは、風力タービンと電池のシステムによる収益を算定するための現行のモデルは、収益を35%過大評価している可能性があると主張している。これは現存する電池技術では、洋上風力発電に一定の経済性を付与するのが難しいことを示唆している。

ドイツ湾の洋上風力発電所の地図. "File:Map of the offshore wind power farms in the German Bight.png" by Maximilian Dörrbecker (Chumwa) is licensed under CC BY-SA 2.0

蓄電設備は必ずしもすべての再エネ発電を正当化しないため、より広範な再エネの利用を促すためには、電池技術のさらなる向上が求められているのだ。

もう一つ、電力系統と再生可能エネルギーを親和的にするビジョンとして、スマートグリッド(SG)がある。

SGは、電力系統上に通信ネットワークを重ね合わせたものと考えることができる。太陽光発電システム、風力発電、バイオマス発電、潮力発電、小水力発電、プラグインハイブリッド電気自動車などの再生可能エネルギーや代替エネルギー源を、自動制御と最新の通信技術を介してシームレスに統合することで、顧客への電力供給の効率性、信頼性、安全性、セキュリティを向上させることができる。SGでは、電気グリッドのこれら4つの分野の様々なコンポーネントが双方向通信と電力の流れを介して連携し、それらの間で相互運用性を提供している。

以下の記事、ポッドキャストからより詳しい状況がわかるだろう。

  • 電力系統制御システムのデジタル化の展望

  • ソフトウェア制御自動車とスマートグリッドの相乗効果 Axion Podcast #55

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※初出で、見出し「電気系統向けの蓄電に密かに参入」としましたが、豪州やハワイで設置済み、進行中のプロジェクトがあり、誤りでした。「蓄電事業を本格化」に訂正しました。

参考文献

  • 電力貯蔵技術と再生可能エネルギー: 要旨 2030 年に向けたコストと市場. 2017年10月

  • 他の参考文献はリンクで示した。

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