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要点
中国は太陽光発電の強固で頑強なサプライチェーンを国内に整備し、市場支配力を築いている。中国はデカップリングが進行する国際情勢下で、欧米へのエネルギー依存を減らしたいと考えている。
中国の太陽光発電(PV)産業の台頭は、1990年代後半、ドイツが屋根置き型のソーラーパネルを普及させるための政府の奨励策に対する国内の反応が渋かったため、資本、技術、専門家を提供して中国を誘い、ドイツの需要に合わせてソーラーパネルを作らせたことから始まった。
中国ではPVは、送電網から離れた貧しい農村部の電力供給源としてしか活用していなかったという。しかし、ソーラーパネルを製造してドイツに輸出すれば収入が得られると、先駆的な企業が興味を示した。さらに、スペインやイタリアが太陽光発電の奨励策を打ち出して需要が急増すると、中国は世界中を回って太陽光発電の専門家を雇い、機械やポリシリコンを調達して、急増するソーラーパネルの注文に応えようとした。
中国は太陽電池会社を買収し、他の会社に中国への移転を呼びかけ、安価で熟練した労働力を確保。再生可能エネルギーの拡大は、中国の5ヵ年計画で融資や税制優遇など特別な配慮がなされる7つの事業分野の1つとなった。その結果、中国は世界最大の太陽電池製造業を築き上げ、安価な太陽電池パネルをはじめとする世界のほとんどの市場で価格競争力を持つようになり、一時は世界的な供給過剰に陥った。
2000年の時点では、ドイツと日本のPV市場が世界のPV市場の60%近くを占めていた。日本では2005年にPV導入補助金制度が終了したため、停滞期に入った。日本は2005年にPV市場シェアの世界的リーダーとしての地位を失い、ドイツが世界のPV市場を支配し始めた。ドイツのPV市場は、世界のPV設置容量の60%以上を占めていた。2012年には政策変更があり、ドイツのPV市場の成長は鈍化した。中国では、2009年に中国政府が国内のPV市場の発展を促進するための最初の重要な施策である「Golden-Sun Program」を導入した。市場は2010年には300%以上、2011年には500%以上の成長を遂げた。
中国はドイツに倣って、屋根に設置したソーラーパネルで発電した電力を高額で買い取る固定価格買取制度(FIT)を独自に設計した。中国がFIT制度を利用して現地のPV市場の発展を促したことで、国内のPV産業が米国や欧州でのアンチダンピング措置による困難を克服するのに役立った。2015年には、中国のPV企業がPVの研究開発に投資することを奨励する政策が導入された。
その結果、太陽光発電の国内需要が急増した。2015年には、中国の国内市場がドイツを抜いて世界一になった。その後、中国国内市場は大幅に拡大し、中国のPV産業は成長を続けている。現在、中国のPV生産量シェアは世界の70%以上を占めている。
米国エネルギー省の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)およびマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが、米国と中国の太陽電池産業を調査した結果、中国が太陽電池パネルの製造で優位に立っているのは、安価な労働力や政府の支援だけではなく、中国の競争力の大部分は、資本への優先的なアクセス(間接的な政府補助金)によって可能になった生産規模と、その結果としてのサプライチェーンの利点に起因するものと判明した。
現在、中国市場には太陽光発電の大手メーカーがひしめいている。Trina Solar, CHINT Group Corporation, JA Solar Holdings, Xinyi Solar Holdings (香港上場), Jinniu Energy, Suntech Power, Yingli and China Sunergy (NASDAQ上場) などだ。
しかも、中国は原材料も押さえている。中国は、太陽電池のインゴットやウェハーを作るための原料であるポリシリコンの世界シェアの64%を占めている。アメリカのシェアは10%にすぎない。ポリシリコン、インゴット、ウェハーを製造する事業は、Daqo New Energy DQ、GCL-Poly、Jinko Solar、Longiといった6社の中国企業によって支配されている。インゴットとウェハーの世界シェアは、中国がほぼ100%だ。
エネルギーの独立性
中国が太陽光発電に強く投資する背景として、化石燃料への依存を減らす目論見が指摘されている。中国は、自国の石油の多くがホルムズ海峡やマラッカ海峡を経由していることを強く意識している。ホルムズ海峡やマラッカ海峡は、第三者による紛争や、極端な場合にはアメリカ海軍によって閉鎖される可能性がある。最近、アメリカとの関係が悪化するにつれ、中国のエネルギー安全保障への関心が高まっているはずだ。
現在、デカップリングが叫ばれているが、中国は備蓄用の原油だけでなく、アメリカから大量のLNGを購入している。新5ヵ年計画では、より柔軟で信頼性の高いエネルギーシステムの必要性が強調されている。
中国は、石油やガスの供給不足を産業政策で補っており、国内の石炭生産や原子力発電、そして現在世界最大の規模を誇る自然エネルギー部門を長年にわたって支援してきた。中国企業は、コンゴ民主共和国、チリ、オーストラリアなどの鉱山に投資し、ソーラーパネルや電気自動車などに必要な鉱物を確保している。石油国家になれない中国にはあらゆるものを電動化する確かな動機がある。鉱山から発電所までの一連の流れに沿って戦略的に投資している。
中国には、1,000ギガワット以上の石炭火力発電設備がある。この設備で世界の石炭火力発電の49%をまかなっている中国は、世界最大の二酸化炭素排出国でもある。補助金や制度のせいで、石炭発電への過剰投資も起きたこともある。
中国の太陽光発電の設備容量は2020年末で253GWで、一般的に見て膨大ではあるが、石炭の半分にも満たない。また、中国は他のどの国よりも早く原子力発電所を建設しており、現在中国にある48基の原子炉の平均建設年数は10年未満で、今後も建設を続ける予定だ。中国の原子力発電、風力発電、太陽光発電、バッテリーなどの分野の発展の仕方はさまざまだが、基本的な方式は同じである。すなわち、外国から学び、大規模な投資と権威主義的な政治権力を用いて、非常に大規模な展開を支援する、ということだ。
参考文献
Alan C. Goodrich, Douglas M. Powell, Ted L. James, Michael Woodhouse and Tonio Buonassisi. Assessing the drivers of regional trends in photovoltaic manufacturing. Energy & Environ. Sci., 2012. DOI: 10.1039/C3EE40701b
Hongyang Zou, Huibin Du, Jingzheng Ren, Benjamin K. Sovacool, Yongjie Zhang, Guozhu Mao, Market dynamics, innovation, and transition in China's solar photovoltaic (PV) industry: A critical review, Renewable and Sustainable Energy Reviews, Volume 69, 2017, Pages 197-206,
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